第64話 好み

 お昼過ぎに店先で現地解散、その後俺は帰り道が同じ方向の天海さんと二人でタクシーに乗っていた。


 高校に着いた後は俺も天海さんも徒歩で帰れるので、そこまで二人で行こうという話なったのだ。


 そしてその道中、天海さんにこんなことを言われた。


「私…実は同級生に好きな人が居るんだけど。その人がどんな趣味か分からなくて…話しかけるのも躊躇っちゃっててさ…」

「あぁ、俺に聞くって事は瑠衣だよな」


 アレのどこが良いんだろう。やっぱり顔かな。

 ちゃんと話した事が無い限りは性格の悪いイケメンでしかない筈だが…。


「……他に選択肢無いの?」

「無い。それに、正解だろ?」

「正解だけど…」


 ほら、正解だ。他の選択肢は中島だけだから、アレは無い。悪いやつじゃないけど…瑠衣と中島の二択しか居ないんだから、実質瑠衣一択だよね。


「付き合うのは無理、諦めような」

「えぇ……しのっち無慈悲過ぎ」


 可能性は万に一つの奇跡があるか無いか…だ。


「確かに、金村君って誰に告白されても断るよね…あれなんでなの?」


 …俺はしのっちなのに、瑠衣は普通に金村君なんだ…へえ…。


「アイツの性格がとにかく面倒臭いからだな。一応フォローとして言っておくと、瑠衣は普通にしてると凄え良い奴だからな?」

「それは…何となく分かるよ?ちょっと近寄り難い雰囲気はあるけど…。それに、しのっちと白雪さんと仲良いのも……正直ちょっと良く分かんないし」

「まあ、俺と白雪は特殊な方だから仲良くなっただけで…」

「特殊?」

「そう、瑠衣の面倒な性格をすり抜ける特殊なタイプだから」


 そもそも仲良くなった経緯も普通とは言い難い物だったから。


「瑠衣って、昔からの積み重ねのせいで「自分に興味を持ってる人」が苦手なんだよ」

「……なにそれ…?」

「色々あったらしいよ、何があったのかは興味ないから聞いてないけど」

「……あぁ、それで仲良くなれたの…」


 一々余計なことを聞いてこないから気に入られてるんだろうな、そんな気がする。


 学校の前でタクシーを降りて、時間を確認する。


「…んー…天海さんはすぐ帰るのか?」

「うん、課題終わってないんよね〜」

「そっか…じゃあ送ってくよ」

「えっ?いいって、そんなに遠くないし」

「徒歩だろ?話も途中だし」

「それもそっか」


 帰り反対方向だけど。

 天海さんの隣に並んで歩き、歩幅を合わせる。


「…で、なんの話だっけ?」

「どうやったら金村君にお近づきになれるかな?って話」

「正直厳しいと思う、そもそも瑠衣が女子と一緒に居るイメージがつかない」

「…金村君って彼女居たことある?」

「俺の知ってる限りでは無いな」


 そもそも瑠衣は昔からサッカーに傾倒していたそうだ。他の何かにうつつを抜かす事はなかっただろう。


「…まあ…なんだ、今度さり気なく聞いてみるよ」

「えっ?もしかして協力してくれるの?」

「俺からすりゃ他人事だし興味本位だよ、まあ協力は…瑠衣にその気があればの話だけどな。バイト中色々世話になったお礼って事で」

「貸し一つでも良いよ〜?」

「そういうのは良い…」

「あっ、じゃあ…明日、学校で会うか分かんないけど」

「ん、また」


 ぷらぷらと軽く手を振って、天海さんが家に入ったのを見送ってから踵を返した。


「……にしても、瑠衣か…」


 実際のところどうなんだろう?

 あまり恋愛に興味があるタイプではないというのは知っているが、それはそうとどんな女性が好み何だろう…とかは知らない。


 あまり二人でそういう話はしないし、会うときは大体白雪が間に入ってるから余計にだ。


「……俺は明日の事より、明後日のこと考えないとな…」


 遥香からの復讐がある日だから警戒心全開にしておかないと…。

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