第106話 人の事

 誰もいない、無駄に広いリビング。

 足を抱えてソファ座り、通話先の相手に言葉を続ける。


「…どうすればいいかな…?」


『それ私に聞かないでくれない?当てつけも良いところだし』


「こっちは真面目に聞いてるの!」


『尚更たちが悪い!なんで凛華と喧嘩別れした私が凛華とバレンタインデート行く人にアドバイスしなきゃ行けないの!?』


「他に聞ける人が居ないからに決まってるでしょ!」


 喧嘩腰の声を上げた通話先の相手は、黒崎椿。

 凛華とは喧嘩別れをしたというか…99%くらいは椿が悪い。

 いや、そんな事は今どうだっていい。


 なんだかんだ言って幼馴染みとしてそこそこの時間を共にしてる椿が、アドバイザーとしては一番適切なのだ。

 凛華には若干エスパー気味の妹を筆頭た取り巻き女子が多いが、彼の事をしっかりと理解できてる人は案外少ない。


「デートどんな格好で行けば良い?」


『だから私に聞かないでってば!凛華の好みなんて知らないよ!てか凛華が女の子の服装気にするわけないじゃん…常識的におかしくない限りは気にしないでしょ』


「そんなの事は知ってるの、それを承知の上で聞いてるんでしょ!」


『そもそも私は根本的に何をどうしたら凛華とバレンタインにデート出来るのかを知りたいんだけど!』


「…それは、凛華以外の男ばっかり追っかけてた椿にそんな権利ないから関係ないでしょ」


『これ権利の話なの!?』


 …あー…もう、話が進まない。

 私がしたいのはこんなくだらない話じゃなくてもっと有益な話だ。


『…てか本人に聞きなよ。凛華なら普通に答えるでしょ』


「答えるだろうけど…流石に、じゃない…?」


『ねえ、今更だけどさ…美咲ちゃんってさぁ…。凛華とどうなりたいわけ?一回断われてるんでしょ?』


「…それは…」


 確かに告白は断られた。でも好きな気持ちは変わってないし、凛華は距離を取ろうとはしない。

 私だって、今の関係が嫌いな訳じゃない。


『今の美咲ちゃんってさ、ほぼ生殺しじゃん。辛くないの?』


 言われてみればその通りかも知れない。私はあわよくば…というか、出来る限り関係を進展させたい。

 でも凛華は今の関係から一度でも進んだ後、今と同じ場所に戻って来れない事が嫌なんだと言っていた筈だ。

 周りの関係は変わり続けるから、変わらない関係があった方が良い…と。


 言いたい事は分かるけど、冷静になって考えると自分のことを好きだと言っている女の子相手に言う言葉ではない。


「…凛華がこういう性格になった原因って、今私が話をしてる人だったと思うんだけど」


 そう、もっと根本的な話だ。椿が凛華に一筋だったら、他に凛華に惚れる女の子なんて殆ど居なかっただろう。居たとしても、私みたいに一歩引いた関係に終わった筈だ。

 勝てないって分かりきってる訳だから。


『えっ、違うよ?凛華がそうなったのは遥香に懐かれてからだもん。じゃなきゃ私が押し倒してるよ』


「……遥香……?」


 またあの子か。

 凛華が魔性だから、というのは仕方ないとして。


 …なんでこう、無償で彼の寵愛を受けられる人達はその先を求めて自滅して行くのかな…?

 私も含めて、になるが…惚れる相手を間違えてるんじゃないだろうか?


 それは良いとして、遥香が懐いた頃ということはつまり、凛華が両親との関係に気付いてからと言うことで…椿が男漁りに勤しむ前ということ。


 となるとほとんど素の性分、という事だろう。

 誰が相手だろうと関係を発展させたがらない、というのは彼の大元の性格なのだ。


『美咲ちゃんはせっかく美人なのに、惚れる相手失敗したよねぇ』


「…人の事言えないでしょ」

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