第105話 予約

「私と付き合って下さい!」


 今年に入って何回目だったかな…とぼんやり考えながら「今はその気がない」的な言い方をして断る。


 一月と冬休みは終わりを告げて、今は二月に入って一週間経過した。


 最近…具体的には今年に入ってから。


 理由は分からないが、後輩の女の子から告白される事がとても増えた。

 それはもう、本当に増えた。なんでなのか全く分からないが。


 ここの所は木下さんとか朝比奈さんとか、雫とか遥香とか如月とかと話をするのにちょいちょいと一年教室を出入りする回数が増えただけだ。


 その関係で別の後輩と話をすることも増えてはいるが…。にしても増えすぎだろ…。


 若干の罪悪感をモヤモヤと胸に抱えたまま帰路に着こうとした時、偶然白雪を見つけた。


 校舎裏から歩いてきた俺の事を見るなり、肩を竦めて声をかけてくる。


「先月は体育館で…この前は保健室、今日は校舎裏?ロマンチストが多いね」


「それと今月は、こっちでも3つ」


 スマホを取り出してプラプラと見せると、白雪は苦笑いをしながら自然な動作で俺の手からスマホを取った。


「……ずっと一緒にいた幼馴染みが実は女よけになってた事に気付いた気持ちはどう?」


「ここに狂気的な奴が入ってた瑠衣よりはいくらかマシかな…って思うね」


「去年の夏くらいは、寧ろ金村君がそんなセリフを言ってたかもね」


「…どうだっけな」


 言われた覚えはないが、言ってそうな気がしないでもない。


 ふと、白雪はまたも肩を竦めて小さく笑った。


「どうした?」


「いや。女の子にモテモテって割にはあんまり嬉しそうじゃないから」


「…かもな。一年の時と比べて、あまりにも環境が変わり過ぎてるし…」


「ふふっ、そうだね。一年で…何もかも変わった様な感覚になってる」


 実際、色々変わった。ただ、たった一年での目まぐるしさとは思えないくらいに変わり過ぎた。


「…そうだ、凛華に一つ聞きたかったんだ…」


「ん?なに?」


「もしも、の話なんだけど…。一年生の時に、私が凛華に告白してたら…なにか、少しでも変わってたのかなって」


「……椿が居た時…ってことだよな……んー…」


 どうだろう。

 分かることは一つくらいか。


「めちゃくちゃ悩んだ挙げ句、保留にして欲しいって頼み込むかもな。答えが出せるほど意気地のある人間じゃないから」


「悩んではくれるんだ、椿いるのに」


「そりゃ、めちゃくちゃ悩むだろ。恩人で親友でもある女の子に『好きだ』なんて言われて、悩まない奴居ないと思うよそれに…」


 その先の言葉を言おうとして、詰まる。

 本当に言葉にして良いのか少しだけ考えて、小さく息を吐いた。


「…それに、打算的な言い方にはなっちゃうんだけど……。白雪は、俺の事を絶対に裏切らないだろうなって、確信があるからさ…。白雪がそう言う誠実さを持ってる人だって知ってるから、本気で悩むよ」


 実際、そうだった。

 本当は白雪には、答えを出さなくても一緒にいてくれるだろうって考えがあった。

 でも、彼女の誠実さを知っているから、俺は断るという決断をした。


 これは多分だが、俺は…いつ、どんな時に白雪に告白されたとしても…。多分、断るんだ。 そして、その度に後悔する。どんな次元で、どんな世界線だったとしてもそうなるんだろうな…って思う。


 何故なら友達だから、親友だから。瑠衣と同じで、俺とそんな関係になってくれた奴は他にいなかったから。


「…白雪は、俺にとっては他に替えが効かない心の支えだよ。絶対に変わってほしくない…っていうとワガママだけどさ」


「……ねえ、私が『じゃあいいかも』って思うの分かってて言ってるでしょ?それちょっとずるいんじゃない?」


「本気で言ってるんだよ。俺が胸張って友達だとか親友だとかって言えるのは、白雪と瑠衣しか居ないんだし」


「それ言ったら、私だってそうだよ。親友は凛華と金村君しか居ない」


「そうだろ?周りの環境は変わっても、三人だけは変わらない…って、そういう仲で居たいんだよ。分かるよな、白雪なら」


「分かるけど…」


 それとこれとは、また話が別なんだろう。彼女は加えて何か言おうとして、すぐに口を閉じた。


 俺だって好かれるのが嫌な訳じゃない。

 そもそも今の俺には雫が居るから断ってる、と言う訳でもない。


 …と、そこまで考えて不意に思いついた。。


「…白雪って、俺と付き合うってなったら、何をしたいわけ?」


「何…って、デート…とか?」


「それなら、次の休みに二人だけで出掛けるか。いつも見たいな感じじゃなくて、ちゃんとしたデート」


「……えっ…」


 いつの間にか、俺達は白雪の自宅の前に居た。

 俺が来る時、ここはいつも車がない。何年も友達やってるはずなのに、未だに彼女の両親や兄妹と直接顔を合わせたことが無い。

 白雪本人も「会わせたくない」と言っていた。


 その理由までは聞かなかったけど、彼女だって抱えている物がある。

 ……俺と違って、表に出さないで自分の中で消化できる強い奴なんだけど…。


「……次の…休みは…」


 俺は、スマホを点けて予定を確認しようとした白雪の肩に手を置いた。


「それ俺のやつ」


「あっ…ごめん、忘れてた。えっ…と、次の…って、明後日だよね。私その日先約あって…」


「先約…って?」


「…………椿の、ところ…」


「…ん。そっか。じゃあ……そうだな、来週の…あ、14日とかは?」


 空いてそうな日を選んで聞くと、白雪は訝しげな表情で顔を上げた。


「…逆に聞くけど、凛華その日何も無いの?」


「ん?ないけど」


「………じゃあ、その日で」


「おっけ、決まりな」

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