第21話 大、中、小
「ねえ凛華、見てよアレ」
「…んー…?」
椿達がまたも襲来した翌日、その昼休み。
いつもなら後輩の女子と集まってる目に優しい光景を眺めながら過ごす時間だが、今日は皆用事があるらしいので集まらなかった。
そんなわけで瑠衣と白雪と二年教室で駄弁っていた。
白雪が一階の自販機へ向かったのを見て瑠衣が小銭を渡してお使いを頼む。
そのついでなのか、瑠衣に呼ばれて廊下へ出て指さされていた窓から下を見下ろす。
「…あ、如月だ」
「もう片方はアレサッカー部の先輩なんだけど…」
成程、三年生か。一年生相手になにやって…
「あ、これ…告白現場?」
「だと思うよ」
「玉砕確定してんのに良くやるよ…」
「そうなの?」
「雫たちが理想の彼氏云々話してた時に聞いたんだけどな、如月は自分に告白してくる相手は論外なんだってよ」
「なにそれ、玉砕確定してるじゃん」
瑠衣が肩を揺らして、下にいる先輩を嘲笑った。
「なんか、自分が好きになった人を自分からアピールしたいとか言ってたな」
「へえ…難しそうだね、あのルックスと性格でそれは。因みに理想の彼氏はどんな人だって言ってた?」
「誤魔化してたからそこまではなんとも。ただ、面食いだとは言ってたな」
「やった、良いこと聞いた……あ、フラレた。ざまあ、くははっ」
言ってることの割には、瑠衣の表情からは如月への興味があるようには見えなかった。
それよりも、フラレた先輩を見下す方が強い。
「…嫌いなのか?」
「いいや?最近レギュラーに入って調子に乗りやがってとか思ってないから」
イケメンが窓から下を見下ろす光景ってなんで絵になるんだろうな?
「まあ僕も次の試合スタメンだけど」
「…チームメイトにラフプレイ仕掛けんなよ?」
「昔、君に仕掛けたみたいに?」
「……あれはラフプレイじゃない、蛮行。俺がしたのは正当な防衛」
「言い得て妙だね」
「妙じゃねえよ、事実だろ」
そんな事もあったねえ、なんて良いながら二人同時に教室に向き直った時。
俺と瑠衣の足が交錯して、避けようとした時に俺だけ体勢を崩した。
「うわっ…!?」
「あぶなっ」
転ぶ前に瑠衣に手を掴まれて、二人で教室の壁にもたれ込む。
「悪い、助かっ──」
「なにしてんの…?」
声のした方に顔を向ける。
白雪だけじゃなく、教室に居た殆どのクラスメイト達に不思議な視線を向けられている。
ガタガタと音を立てたからか、少し慌てて様子を見に来たらしい。
「あっ…」
瑠衣が気付いたように俺の顔を見下ろした。
そこで俺もやっと気付いた。
壁を背にもたれる俺と、覆いかぶさる様に壁に肘をつけている。
俺よりも背の高い瑠衣が、見下ろす形で。
…傍から見たら、俺が壁ドンされてるんなこれ。
「ちが…んっ…?」
咄嗟に否定しようとしたが、突然顔の前に瑠衣の手が来て目を背けた。
ふわっと前髪をサイドに移されて耳に掛けられる。ハッキリと瑠衣の抜群のルックスが目に入って来た。
…って、何やってんだこいつ…。
「ねえ凛華」
「…なんだよ?てか早く退けって」
「…サービスショットならこの後、顎クイと鼻チューどっちが良いかな」
「さっさと退けって」
何を言ってるんだこいつは。さっさと退けよと思っていると、結局顎クイに落ち着いた。
悲鳴なのか感嘆の声なのかは知らんが、ちょっとだけ女子の「きゃ〜」が聞こえた。マジで要らねえよそれ。
「…満足した?」
「うん、満足」
白雪が呆れたように聞くと、瑠衣は言葉の通り満足そうに頷いて、俺は開放された。
「……何だったんだよこの時間」
呟きながら教室に戻ろうとすると、さっき同じかそれ以上に視線を感じた。
「…?」
…まあ、九割くらい瑠衣のせいか。
◆◆◆
……アイツ何やってくれてんだよ!!!
放課後になってもなお視線を感じるので、トイレに駆け込んで鏡に写った自分の事を見た。
すると…あら不思議、前髪をサイドに寄せて片目隠れの美少女が…。
誰が女だコラ。
いつヘアピンなんて付けられたんだろう?
顎クイの時か。
…なんでアイツこんなの持ってんだよ。
「……てか、俺結構可愛いんじゃね?」
おっと魔が差した。
けど…いや?そんな事はあるんじゃないか?
母さんの話を真に受ければ、俺と遥香は美人らしいから。
「あ、東雲。なにやってん…あ?」
「ん?」
トイレの入り口から声が聞こえて、鏡越しにクラスメイトと目があった。
「「…………」」
じっと鏡越しに見つめ合い、よくわからない空気感に耐えきれず振り向く。
「…………」
「…おい、大島?」
ギリギリ名字は覚えていた。
クラスメイトは唖然とした顔のまま言った。
「誰だお前」
「東雲凛華」
「…女みたいだよな」
「それ名前の話?顔の話じゃないよな?」
「両方」
両方か。その通りだから何とも言えねえよ。
「…お前そんな顔してたんだ」
「クラスメイトの顔も知らないのかよ大島」
「人の名前間違えっぱなしのやつに言われたくないぞ」
「えっ?じゃあ誰?」
「中島」
…小島じゃねえのかよ。
「…因みに俺の名前分かってる?」
「
「なんでそっちは知ってんだよ!
「戦国武将みたいだなって覚えてた」
一人クラスメイトの名前を覚えた。明日には忘れてないと良いな。
「で、大島、どうした?」
「……トイレにどうしたもねえよ」
「それもそうか…」
なに聞いてんだ俺は。
ため息混じりにヘアピンを外して髪を整える…というか、元の位置に戻してるだけだが。
少しすると中島が隣に来て手を洗う。
「…なんでずっと髪いじってんだ」
「癖つくと直んないんだよな…」
「切ればいいだろ、その長い前髪」
「これ気に入ってるんだよ」
「なんで?」
「妹とお揃いだから」
「シスコンなのかお前」
「シスコンとまでは行かないかな。めちゃくちゃ仲が良いくらいに収まる程度」
「…俺も妹居るけど、顔合わせるたびに喧嘩してるぞ」
「それが普通なんじゃないか?思春期の女の子にとっての理想の兄貴って、アホ程理想高いから」
「あー…そんな気するわ」
何故かは分からないが、俺は中島と肩を並べて男子トイレから出た。
すると……どうしてか、隣の女子トイレから……木下さんと瑠衣が出て来た。
「あっ…」
「あ、東雲先輩」
「「は?」」
瑠衣と目があって、中島が唖然とつぶやく。
「…えっ?なんで女子トイレから…」
「ちょっ…誤解だから!虫が出たから取ってくれって言われただけだから!」
「別に誤解してねえよ、そんな事だろうなって思ってたって、なあ小島」
「そうだな、誤解なんかしてない」
「…中島じゃなかった…?」
瑠衣がそう言ったのでわざとらしく感心してみせた。
「良く知ってるな、中島なのか…」
「大丈夫、こいつわざと間違えてるから」
中島だもんな、大丈夫覚えてるから。
「…あ、凛華それ外しちゃったんだ。勿体無い」
「何も勿体無くない」
「クラスで噂になってるよ」
「お前のせいでな。てかさ、ヘアピン一つで話題になれる俺凄くね?せめて隠れイケメンで話題になりたかった…」
ちょっとだけ落ち込むよ、瑠衣みたいなイケメンだったらな〜って。
「情緒どうなってんだよ?」
「これでハイスペックだったらモテるんだろうな」
「そこは普通だもんね凛華は」
そうなんだよなぁ…。
ふと空気になっていた木下さんに目を向ける。
相変わらず背の小さい子だな。
「木下さんは、なんで三階に?」
「ボクですか?白雪先輩を呼びに来た次いでにトイレ入ったら、Gが居まして…」
「近くに居た瑠衣に声をかけたと、成程。てかなんで白雪?」
「委員会一緒なんです」
…図書委員だったのか木下さん。知らなかったな。
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