第68話 微笑ましい
不意に店先の窓に写った自分の姿を見つけた。
思わず立ち止まり、改めて今の姿を眺めてみる。
「………普通に俺ではあるんだよな…」
知り合いなら一発でここに居るのが東雲凛華という男子高校生だと分かるだろう。
それくらい、俺のままなのだが…。
「あら、可愛いわよ?」
「…まあ、格好良いって言われる見た目はしてないな」
元々そうだと言われたらおしまいだが。
「お姉ちゃんの方が違和感ないね」
「悲しいけど違和感は無いな」
正直それは男子制服着ててもそうなんだよ。
「…まあ良いや…。母さん今これ、何処に向かってんの?」
「着いてからのおたのしみよ」
その道中も楽しみたいんだろう。
もしくは自分の娘(息子)を見せびらかしたいだけなのか。
「…あ、兄さんピアスとかしてみない?」
「ん?…いや、それは普通に止めとく。アクセサリーってそんなに好きじゃないんだよ」
「そっか、ならマニキュアとかの方が良い?」
「マニ…あ、ネイルか…それはまあ、やってみても良いけど…」
「じゃあ今度やってみよ」
「………それこの服装じゃないよな…?」
「普段から着なよ」
「それは嫌だ…」
なんで常日頃からこんなスースーする格好しなきゃいけないんだ。
こちとらハーフパンツすら滅多なことじゃ着用しないってのに、フレアスカートなんて着るわけねえだろ。
「もう手遅れでしょ、その下着着てる時点で」
「そう思うんなら止めさせろよ」
「私はお姉ちゃんでも良いんだけど」
「俺はお兄ちゃんで居たいんだよ!」
「その見た目で?ね、凛華お姉ちゃん」
「………」
兄妹の仲睦まじい会話を聞きながら微笑む母を軽く睨みつけてから、自分の行動の虚しさにため息を吐く。
これは一回きり……じゃねえや…。
俺そう言えば文化祭でも女装するじゃんかよ、しかも主演で。
今更になって思い出した、凛華お姉ちゃん再登場の予定に軽く絶望した。
「夏休み一年くらい伸びねえかな…」
「中学生みたいな事言うわね、凛華は割と学校好きだと思ってたけれど」
「別に学校は嫌いじゃないよ、行事が嫌なだけで」
「行事と言えば、お母さん文化祭見に来れるの?」
「ええ、必ず見に行くわよ。今まで殆ど見に行けなかったもの」
軽い雰囲気で言うけれど、それが家の事情だとも聞いて取れる。
人に聞かせる話でもないから別に構わないが、それでもここはごく一般の人も歩くごく普通の道だ。
もしかしたら、こちらに気付いた知り合いだって居るかも知れない。
…それこそ今、丁度顔を上げて前を見た時に目が会った年下の女の子とか。
…って……あ…。
少女は俺の隣に居る妹を見つけると…なにやら目付きを変えて俺を二度見した。
「あっ、遥香……と…………えっ…?」
「……………」
「あ、穂香。久々…でもないか。奇遇だね」
古山穂香と遭遇した。
しかも、その隣には…確か古山宏斗という名前の義理の兄貴だったか。
二人は同級生らしいが、親の再婚で兄妹になったそうだ。
偶然ながら、俺と遥香の関係とも限りなく似ている。
彼は古山さんの事が好きらしいので、俺は応援してる。
……でも今は会いたくなかった。
「凛華先輩…ですよね…?」
「…は?この人前の…?」
まあ混乱するよな、特に前に恋敵の可能性があった男がめっちゃ高クオリティの女装してたらそりゃ。
「…古山さん」
「……な、なんですか…?」
「この服装でマニキュアやるんなら、寒色系で統一するのと、明るい色味でアクセントにするのどっちが良いと思う?」
俺は咄嗟に今の状態で一番不適切な質問をした気がする。
なんか、テンパってたのかも。
絶対に誤解される話だろこれ、しかも引き下がれなくなったし。
「えっ?えっ……とぉ…明るい色…?」
「…だってさ、遥香もお揃いにしてみるか?」
「良いよ、ならペアルックとかもやってみたい」
あ、たしかにちょっとそれはやりたい。
髪型も近い感じにしたいよなそれは…じゃなくて…。
俺は母さんが少し置いてけぼりになってると思い、そっちに顔を向けた。
すると、母さんは微笑ましそうに俺達のことを見ていたので、俺はそっちには声をかけずに…混乱する古山さん兄妹を、遥香と共にからかって楽しむことにした。
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