第66話 応援したい
閉校時間ギリギリの体育館、いつメン的な三人の内ちゃんと体を動かしてるのは運動部の一人だけ。
その横で帰宅部二人が本を読んだりスマホをいじったり。
だが三人の会話はごく普通に進んでいく。
「金村君って好きな子とか居ないの?」
「強いて言うなら凛華かな」
「そういうのいいから」
珍しく白雪が瑠衣の事を質問で詰めている。
俺としてもタイムリーな話題なので、二人に目を向けた。
「…いつまでも傍観者で居られると思うなよ瑠衣」
「なにそれ急に?僕より先に凛華の話を片付けなよ」
「凛華はその内私が貰うから」
「いや、それ似たようなことを雫も言ってたんだけど…」
「全然片付いてないじゃん。散らかしっぱなしは良くないよ」
「仕方ねえだろ、俺は現状維持しておきたいのに、散らかってる奴らが勝手に動くんだから」
俺は今のところ明確に告白されたらNOと答えている。
それを理解していたから白雪は返答をしなくて良いと言ったし、雫や穂香は「なら惚れさせるまでだ」という勢いで俺に寄ってくる。
二人共最近は作戦を考えて居るのか落ち着きを見せているが…まあそれはそれで良い。
ここのところ俺の方は落ち着いている。
「…だから、今度は瑠衣のターンだな」
「僕正直女の子に興味ないし…」
「そんな気はしてたけどな…」
「あ、でも…それこそ凛華みたいな女の子には興味あるけどね」
「………遥香とか?」
「あぁ、確かに。遥香ちゃんは良いなぁ……でもあの子凛華にしか興味ないし…」
「そんな事はない……事もないけど」
最近本当にそんな気がしてるから否定できねぇんだよな。
「そんなに言うなら誰か紹介してよ」
「良いよ」
「「は?」」
なんで声揃えてこっち見んのかな。
「俺別に変なこと言ってないだろ」
「……本当に紹介する気?」
「寧ろ、知り合いに瑠衣のこと紹介してくれって言われてるから、いい機会だろ?」
「…凛華の知り合いなら割と信用できるかな」
「安心してくれ、めっちゃ良い子だから」
という感じで、なんかサラッと決まった。
日程が決まったら報告するという感じで、天海さんにいい報告ができそうで良かった。
「……で、誰?」
「それは会ってからの…」
「紹介して欲しいって言ってたんなら、僕のこと知ってるんだよね…ならこの学校の人?」
「そうだな、色々あって世話になった時に…瑠衣の事好きなんだって言われてさ。最初は絶対に無理って断ったんだけど」
「別にそんな、絶対に無理とか言わなくて良いんじゃ…」
「いや、お前……」
…絶対に断るやつが何をいってんだよ。
一応はバイト先で色々とお世話になってるから、ちゃんと対応したいんだよ。
だからこんな真面目に話してるのであって…。
それに、自分が関わってないのであれば恋する女の子は応援してあげたい。
「……ともかく、その子とはちゃんと話して欲しいんだよ」
瑠衣の事が好きだと聞いたあの後、俺は初めて天海さんがどんな人なのかを知った。
天海さんは中学生の時、俺や瑠衣とは別の中学校のサッカー部に居たそうだ。
本当は選手として女子サッカーをやりたかったそうだが、体が強い方では無かったのでマネージャーや記録員として部員の手伝いに回ったのだとか。
その際に、敵のチームとして瑠衣を見たのが初めらしい。
相手チームのエースがとんでもなくサッカーの上手い、しかもイケメン。
部員がキャーキャー言う中、天海さんはそのチームで高い実力を持っていたのが瑠衣だけだった事に気付いて、同時に瑠衣の本当の凄さにも気が付いた…と。
初めて知ったのはその時、それ以降中学生生活の三年間で瑠衣の顔や名前は幾度となく見たらしい。
話したことはないが、2年の頃に一度だけ、瑠衣の居た中学校のチームに勝利した。
その時はチーム全体が物凄い盛り上がったそうだが、天海さんはその時に…グラウンドで一人悔しがる瑠衣を見つけた…。
その姿が未だに印象に残っているらしい。
同じ高校に入って、クラスは違えど目立つ瑠衣の事を良く見かけるしサッカー部の練習に人一倍真面目に取り組んでる姿を見て好意を自覚したそうだ。
…まあ、運動部の経験が無い俺にはなんとも言えないけれど、ロマンチックなんじゃないの?
雰囲気は軽いが、学校の仕事やバイトにはとても真面目だし、話しているといい性格が滲み出てくる可愛らしい人だから、俺は応援したい。
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