第83話
あの日依頼、直人が病院に迎えに来る事も携帯が鳴ることも無かった。
あんなケンカをした後だから当然と言えばそれまでだが、周りの女性達にとってはたまったものではない。
それもその筈、今日は待ちに待ったバレンタインデー。
チョコレートを渡す為に待ち伏せしている彼女達の苛立ちは、若葉に向けられてしまっていた。
周りをぐるりと取り囲まれ、身動きも出来ない。
「あの、多分兄は来ないと思います。私達ケンカをしてしまって。。」
家族の話を何故しないといけないのか理解に苦しむが、それでもケンカなんてする貴方が悪いと言われてしまった。
「お兄さんに連絡をしなさいよ。何なら連絡先を教えて頂戴」
「それは兄の個人情報なので無理です」
若葉はため息を吐きながら返事をした。
このままだと話にならない。
そう思っていた所に、一台の黒塗りの車が通り過ぎて急に止まった。
しばらくするとサングラスをした男が運転席から降りて来て後部座席を開けた。
出てきたのはスーツ姿の拓也だった。
「丁度近くを通りかかったら集団の中に君がいたから驚いて出てきたんだけど、これは一体。。」
渡りに船とはこの事をいうのだろう。
若葉は一瞬の隙を突いて揉みくちゃにされながら拓也の方に走り寄り、
「御免なさい、助けて!」
と叫んだ。
彼も何かを察したのかすぐさま車の中に彼女を押し込めると
「すぐ出せ」
と男に合図した。
女性達は諦めきれずに追いかけて来ていたが、スピードを出す車には叶わなかった。
助かった。。
若葉はホットして拓也に礼を言った。
さっきの状態を説明すると、彼は呆れながら
「とんだ災難だったね」
と頭を撫でながら同情してくれた。
「今から自宅に戻る予定なんだけど一緒に来るかい?
一旦仕事に出るけど直ぐに帰るから」
「えっ?」
拓也の自宅か。。
どうしよう。チャラい女っていうことになるのかなぁ。。
「ん?心配?何もしないから」
顔を覗き込まれて、若葉の顔が真っ赤になってしまった。
「じゃあ、お供します」
下を向きながら返事をする姿に、拓也は大笑いして頷いた。
本当にこの間抜けな性格、なんとかしなければ。。
若葉はつくづくそう思った。
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