第57話

紗代子は心を落ち着かせようとお茶を飲んだ。


(美味しい。これはお茶の葉も入れ方も本格的だわ)

昔母から一通りの作法を教わった紗代子は、フネが入れてくれたお茶を飲んで直ぐにわかった。


「とにかく私の気持ちは変わりません。それに雄也さんは私の事を何も知らないでしょう。3、4回会っただけで愛しているだなんて、雄也さんこそどうかしているわ。

長野のホテルの事だって。

私は貴方が何を考えているのかわからない」

紗代子はあのスイートルームを思い出して言った。


彼女の言葉に雄也は大声で笑い出した。


何か面白い事言ったかしら?

紗代子は雄也の笑う姿に少しムッとした。


「紗代子さんの事は全てわかるよ。君の考えている事や好みの服、食べ物、全てね。

生い立ちはすまないが色々調べさせてもらったけどね」


彼女は嘘だと首を横に振った。


「君こそ私の事を何もわかってはいないよ。

直治に組長の座を譲った時から、ずっと彼の側でサポートをしてきた。色々な人間とも交渉事をしてきたし、人と少し話をすればどんな奴かは大体わかる。

直治が君の事を頼んで来た時は一体どんな女性かと半分興味はあったが、それもわかる気がする」

雄也は思い出しているように微笑んでいた。

「私まで君の魅力に虜になるとは思わなかったけどね」


「私は雄也さんの事そんな気持ちで見たことは無いわ。直治さんのお兄さんだから。。」


「それもわかっているよ。でも君の事を知れば知る程惹きつけられていくんだ。

君の唇の柔らかさや意外と感じる体だという事もわかっているし」

雄也はからかいながら紗代子を見つめた。


その言葉に紗代子は顔が真っ赤になってしまった。

「と、とにかく私は組長にも周りにも直治さんとの事を認めて貰います。

すいませんが私の気持ちはお伝えしました。

フネさんが言っていた別のお部屋に行きます!

紗代子は立ち上がり部屋を出ようとした。


そうはさせるかと、雄也は自分も立ち上がり紗代子の体を抱きしめ唇を奪った。


(やめて、雄也さん)

必死にもがいて離れようとする紗代子だが、雄也の体はびくともしない。


「紗代子、近々組長は君は私の結婚相手だと皆に報告する会を開くはずだ。もう全ては決まっているんだよ。

いくらもがいてもこの腕から逃れられないように。

あまり私を怒らせない方がいいよ。私は直治ほどおしとよしではない。君への愛し方を体でわかってもらうようにしたくはないんだ」

そう言うと雄也は再度紗代子の唇を奪った。

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