第8話
次の日から紗代子は特別室担当の看護師となった。
院長からは病院内で通達が入っているようで、あえて誰からも質問されることはなかった。
しばらくの間の生活必需品をスーツケースに詰め込み、特別室で24時間体制の準備をして寮を出て病院へ向かった。
特別室はマンションでいうと2LDKの広さで、患者さんの寝ているベットの部屋にソファがおかれていて、小さなキッチンもあった。
隣の部屋はご家族が泊まれるように少し小さめの和室の部屋になっていた。
この和室の部屋がこれから紗代子が生活する場所になり、布団、机、テレビなど紗代子用に用意されているものが置いてあった。
患者さんの部屋には誰かしら男性が待機していた。
男性は常に患者さんの側に付いていて、時間がくれば代わりの人が交代するという形態をとっているらしい。
紗代子は男性に軽く挨拶をした。
和室の部屋で荷物の整理をしていると、院長が診察にやってきた。
紗代子は慌てて院長に挨拶をした。
「今日から担当致します」
院長は頷いてベットに近づき、患者の様子を見ていた。
容態は安定しているようだった。
「何かあれば早めに私を呼ぶように。」
院長はそう言って部屋を出て行った。
「ふぅ」
紗代子はため息なのか安堵感なのかわからない吐息をついた。
これからしばらく頑張らなければ。
でもこの患者さんは一体どんな人なんだろう。
紗代子の中で興味が湧いてきた。
「血圧、体温、大丈夫ですね。
これからしばらく寝たきりだったので、身体を拭かせて頂きますね」
紗代子は意識がない患者さんと男性に聞こえるように言った。
その言葉に一瞬男性は紗代子を凝視したが、紗代子の手際良い対応に何も言うことはなく、ソファでその様子を観察していた。
患者さんの寝巻きを脱がしてはっと手が止まった。
身体にはなんとも綺麗な龍の刺青が彫られていたのだ。
紗代子は全ての謎が解けたような気がした。
この男性達のこと、院長自身の診察、特別室での入院。
男性がこちらを見ているのを察して、紗代子は何ごともなかったように淡々と身体を拭いて寝巻きを変え、最後に顔を拭いた。
初めて患者さんの顔を良く見た紗代子は、まだ30代ぐらいの好青年に思えた。
髭は無防備に生えていたが、整った顔立ちをしていた。
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