第7話
「俺と一緒に歩いていかないか。」
「ありがとう。
あなたに付いていきます、いつまでも。」
手紙の最後はこの言葉で終わっていた。
「今日は忙しいわね、あと何人患者さん来るのかしらね」
看護師の1人がため息をつきながら言った。
「こんな時もあるわよ、頑張りましょう。
ほら、また来たわよ」
紗代子は仲間の看護師を励ますように微笑んで、運ばれて来た新しい患者さんに近づいた。
ただ、運び込まれたこの患者さんには何人もの男性が周りにいて、威圧感を感じた。
「話はしてあります。
このお方は私達が部屋まで運びます、お構いなく」
5人程の大柄の男性達が患者を囲み、紗代子は何がなんだかわかずに「患者様に負担がかかります。血圧や状態も確認しなければなりません」
紗代子は叫んだ。
「話は院長にしてある」
男性は聞き入れることはなく、早々と部屋に運んでいった。
彼女は止めに走った。
その時、「辞めなさい。この患者様は私が直接診察するから君達は別の患者様を見て来なさい」
院長が現れ、私達に諭した。
紗代子達は院長が直接診察されるなんて、と驚きながらも、言われた通り他の患者さんの元へ向かった。
バタバタと時間が過ぎ、この日は入院した患者さんは少なく、なんとか退社時間までに仕事を終わらせそうであった。
看護師室で書類のカルテの整理をしていると、
「ねえ、院長が担当しているあの患者さん、どうやら訳ありみたいよ。
それも特別室にしばらく入院らしいわ」
別の看護師が情報を私達に話しだした。
「訳ありって、議員さんか有名な人なのかしら?」
紗代子は手を止めずに答えた。
「そこまでは私もわからないのよ。入院中に多分何かわかるんじゃないかしら」
私達がその話をしていると、看護師長が入ってきたので会話は途切れてしまった。
次の日、紗代子が病院に出勤すると「特別室へ」という文字が黒板に書いてあった。
紗代子は昨日の患者さんの事だろうかと思いながら、特別室に向かった。
途中みんなから「様子を教えてね」と言われた。
「有名人ならサインよ」
からかう人もいて、紗代子は「もう〜」といいながら緊張した気持ちが少し和らいだ。
コンコン。
「どうぞ」
院長の声がした。
紗代子は静かにドアを開けて挨拶をした。
中は特別室だけあって広く、院長と昨日の男性達が何人か座っていた。
「君は確かご両親が他界されてから寮に住んでいたね」
院長はゆっくりと私に聞いた。
「はい、今1人で寮を利用させて頂いています。」
院長は男性達に顔を向け、お互い頷いた。
「実は君に今日からこちらの患者様を担当してもらおうと思っているんだ。
できればこの患者様1人を担当してもらいたい。
寝泊まりも隣の部屋でしてもらう予定だ」
紗代子はびっくりして聞き返した。
「それは24時間担当ということですか?」
院長は頷いた。
「患者様は思ったより容態が悪い。もちろん担当医は私だ。何かあれば私も直ぐに対応する。
それと、この患者様のことは院内では他言してはならない。」
院長と男達が私を見つめている。
紗代子は断ることはこの病院を辞めなければならないかもしれないという程の威圧感を感じた。
「給料はもちろんあげさせて貰うし、衣食も保証するよ。」
院長は動揺している紗代子を察して優しく言った。
両親が他界してから、この病院にも院長にもお世話になった紗代子。
もはや断る理由がなかった。
ただ、患者さんは一体何者なのだろうか。
少しの不安が紗代子にはあった。
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