第78話
六本木に着くと、とあるビルの上層階にあるフランス料理店に向かった。
「何が好きなのか聞き忘れたから勝手にチョイスしたけど、ここ美味しいんだ」
拓也が店内に入ると店員が深々と頭を下げて挨拶してきた。
この様子から見て、多分行きつけのお店なのだろう。
窓側の景色が良く見渡せる席に案内された。
「若葉は高い所大丈夫?」
心配する拓也に、大丈夫だと笑って答えた。
「ここは夜景を見ながら食事をするのが最高なんだよ」
「そんな感じだね」
2人が話をしていると、ウエイターがメニューを持って来た。
「食事はいつものを。ワインは。。若葉は何か飲みたい物がある?」
お酒の種類が良く分からない彼女を察したウエイターが、余り強くない喉越しの良いワインを選んでくれた。
「彼はワインソムリエだから大体の事を言ったら選んでくれるんだよ」
「ごめんね、私いつも兄さんと食事をしてもお酒は飲ませてもらえないからよく分からないの」
「あぁ、あのお兄さん?すごく威厳のある人だったね」
拓也は思い出して笑った。
「そうなの!いつも子供扱いしていて。普段は優しい人なんだけど」
彼女はため息をついた。
「色々心配なんだよ。可愛い妹に何かあったら大変だからって」
そうなのかなぁ、余りにも監視がひどいんだけど。。
先程のソムリエがワインと前菜を運んできたので話を中断し、2人はしばらく食事を堪能した。
あまりにもワインが美味しく飲むスピードが速まって、若葉はほろ酔い状態になっていった。
「お酒に弱いのか?顔が真っ赤だけど」
「大丈夫だよー。顔が赤いのは拓也がいるからだよー。ほんと拓也ってかっこいいよねー」
「それって、素面の時に聞きたかった言葉だけど」
彼はクスクス笑いながら立ち上がると若葉のグラスを取り上げた。
「もうこれぐらいにしな。送り狼になっても知らないぞ」
若葉はぶーっと頬を膨らませて怒った顔をしたが、確かにふらふらするのを感じていたので代わりにお水を持ってきてもらった。
「あのさぁ、あなた極道なの?」
酔った勢いでサラリときいてみた。
拓也は一瞬驚いた顔をしたが、彼女に看病してもらった時に刺青を見られていたのですんなりと頷いた。
「好きでなった訳じゃない。親父がそうだから仕方ないんだ。」
そうなんだ。この人も親が極道なのか。。
若葉は自分の生い立ちを思い出して胸が苦しくなってきた。
「そうだよね。仕方ないもんね。
じゃあ家を継ぐとかそんな感じなの?」
「反発してしばらくアメリカに住んでいたんだけど、呼び戻された。その時に刺青を入れたんだ。決心みたいなものかな」
決して話を逸らす事もなく真剣に答えてくれる拓也に、何故か涙が溢れてきた。
「ちょ、なんで泣くんだ?大した事じゃないよ。それより、今度は俺が若葉に質問していい?」
「え?」
お酒でぼーっとしていた頭が急にしっかりとしてきた。
「若葉は俺の刺青見て極道とか思っていたんだろ?でも怖がらないのは何故?」
「怖がらないって、、それは、、
多分兄さんが怖いから慣れたんだと思う」
適当にはぐらかそうとした若葉だが、顔が引きつっていたに違いない。
自分も極道の娘、組長の孫なんて知られては困るのだから。
拓也は彼女の言葉に
「確かに」
と笑いながら答えた。
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