第23話
「紗代子君、どうしたのかな」
車の中で院長が紗代子に言った。
明らかに彼女の顔色が良くなかったからだった。
「あ、大丈夫です。お屋敷にびっくりしただけです。」
紗代子は慌てて答えた。
美鈴の言葉が頭から離れないが、院長にはその事を知られたくなかった。
「あのお屋敷は私もなかなか慣れないよ。直治様のお父さんの代から行き来はさせて頂いているが。
君が驚くのも無理はないがね」
院長の言葉に紗代子は頷いた。
しばらくして車が病院に着いた。
車のドアが開けられ、院長と男衆が話をしだしたので、紗代子は先に病院内に戻った。
直治から聞かされていなかった美鈴さんという許婚の話。
直治に会えた事はとても嬉しかった、
それだけに、崖から突き落とされたような感じの紗代子だった。
仕事が終わり、寮に帰ろうと病院を出た紗代子に、1人の男性が声をかけてきた。
明らかにイナス組の男だった。
彼は直治から頼まれて紗代子に会いに来たらしい。
ここでは何だからと、近くの喫茶店に行くことになり、紗代子は彼について行った。
寮からさほど遠くない所に古びた喫茶店があり、彼はそこに入った。
昔からある喫茶店だが、紗代子はこの喫茶店に入るのは初めてだった。
中はレトロな感じで、コーヒーにはこだわりがあるらしく、色々な種類のメニューがあった。
席に座ると、高齢の亭主がお水とおしぼりを持って注文を聞きに来た。
男はブラックを注文すると、紗代子の顔を見た。
紗代子はアメリカンを頼み、亭主はカウンターに戻った。
店内は2人だけで誰もいなかった。
「私は、雄也と言うものです。紗代子さんの事は直治から聞いていました。
朝方はわざわざ屋敷に来てくださりありがとうございます」
雄也は丁寧に挨拶をした。
彼は直治よりも年上なのだろうか、少し落ち着いた感じがした。
紗代子も挨拶をした。
彼はゆっくりとした口調で話し出した。
直治が貴方にまた会いたいという事、そして美鈴との事を知らせておきたいという事だった。
また、雄也自身直治の血の繋がらない兄で有る事を紗代子に伝えたのだった。
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