第22話
お久しぶりです。
男衆が院長に挨拶をしていた。
車から降りた紗代子は、広大な敷地、立派な玄関に驚いた。
彼女が育った家はアパートで、高校の時に両親が他界。
院長と紗代子の父親が親友だった事から、看護師として資格を取り今の寮で生活をしている。
紗代子にとって院長は、恩人のような存在なのだ。
紗代子はこのようなお屋敷は、見たこともなかった。
「紗代子君、中に入るよ」
院長の声に、紗代子は我に帰った。
玄関から直治がいる部屋までの廊下も長く、所々に高そうな調度品が飾られていた。
こちらになります。
男衆の案内で、直治の部屋の前まで来た。
ドアは引き戸になっていて、中に入ると広い室内に直治が布団の上に座っていた。
「直治さん。」
思わず声が出そうになったが、直治の横には着物を着ている女性、美鈴がいた。
「院長、また世話になるよ」
直治は院長に声をかけて立ち上がろうとした。
美鈴もしっかりと直治の体を支えていた。
紗代子はこの様子をぼーっと眺めていた。
「あ、院長様と、看護師様ですね。私は直治様のお世話をさせて頂いている美鈴と申します。」
彼女は自分から挨拶をした。
院長は直治の側に行き、診察を始めた。
紗代子も院長の隣で血圧や体温を測ったり、傷の様子を見ようと包帯を外そうとした。
紗代子がそれをしようとした途端、チラっと紗代子を見て、美鈴が自ら包帯を外し始めた。
「直治様の包帯、私が巻いておりました。これでよろしかったでしょうか」
美鈴は院長の方を見て言った。
院長はこくりと頷き、外された包帯から傷の様子を診察した。
美鈴が直治の側にいた為に、紗代子は何もする事が出来なかった。
直治はその様子を察したのか、美鈴にお茶を持ってくるように命じた。
美鈴も紗代子が気になっていたようだったが、直治に言われて部屋を出ていった。
「彼女は父が私に世話をさせるように用意した子だ。
色々邪魔させてすまない」
直治が紗代子の顔を見てそう言った。
「直治さん、だいぶ顔色もよくなりましたね、良かったです。」
紗代子は当たり障りもない会話をした。
院長が隣にいる為、会話がどことなくぎこちなくなっていた。
診察を終え、紗代子は彼に新しい包帯を巻いた。
久しぶりに触れ合う直治の体。
愛おしさがこみ上げてきた。
美鈴がタイミングを見計らってか、引き戸を開けてお茶を持ってきた。
「直治様のご様子は如何でしたでしょうか?」
美鈴が聞いてきた。
直治が一瞬険しい顔をしたが、美鈴は続けた。
「直治様のお父様からきちんと聞いておくようにと仰せつかっておりますので」
彼女はとても直治を大切に、いや、それ以上の感情があるのは誰の目に見ても明らかだった。
院長は、診察した内容を彼女に分かりやすいように説明した。
直治と紗代子はその間、ずっと見つめあっていた。
直治は、特別室で見ていた彼となんら変わっていなかった。
紗代子には直治の気持ちが伝わってきた。
そして、少しほっとした。
美鈴は院長の話を聞きながら、二人の様子も
気にかけていた。
「それでは今日はこれで。リハビリはゆっくりして下さい」
院長は直治にいった。
そして立ち上がり、彼に挨拶をして部屋をでようとした。
紗代子もそれに続いて部屋を出た。
一瞬直治の方を見た紗代子だったが、男衆が引き戸を閉めてしまった。
玄関まで行くと、車が様子されていた。
男衆が院長に帰りの挨拶をしていた。
その時、美鈴が玄関にやってきた。
「あの。。紗代子さんでしたよね」
彼女から声をかけてきた。
紗代子は美鈴に挨拶をした。
「直治様から紗代子さんのお話は聞いていました。お姿を見た時に、紗代子さんがそのお方だとわかりました。」
美鈴は言った。
紗代子が声を出そうとした瞬間、美鈴が遮った。
「直治様と私は許婚です。直治様のお父様から直治様の結婚相手だと言われております。」
美鈴は凛とした態度で紗代子に言った。
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