第24話
紗代子は平常心を保っているようにしていたが、心の中は複雑な思いでいっぱいになっていた。
会話が途切れたタイミングで、コーヒーが運ばれてきた。
雄也はゆっくりとコーヒーを飲んだ。
紗代子も飲もうとするのだが、手が震えてうまくカップを持つことが出来なかった。
その様子を察した雄也は、紗代子の手に自分の手を重ねた。
「びっくりしただろうね。とにかく落ち着いて。」
雄也は優しく言った。
落ち着けと言われても、直治の住んでいるお屋敷の事や、美鈴という許婚の事、また雄也と言う兄まで現れたのだ。
そう簡単に落ち着けというほうが無理な話だ。
紗代子はさぞかし複雑な顔をしていたのだろう。
雄也は重ねた手をゆっくりと離してくすっと笑った。
「直治がどうして貴方に惹かれたのかわかったよ。紗代子さんはとても純粋な方だね」
雄也は紗代子の顔をじっと見つめてそう言った。
「雄也さん、、あの、、私は今日直治さんにお会いして安心したんです。だいぶ体調も回復していましたし。
ただ、美鈴さんという許婚の方がいらっしゃるとは夢にも思いませんでした。。」
紗代子は素直に口にした。
直治さんの気持ちがわからなくなっていた紗代子に、雄也は話し出した。
「美鈴は親父が勝手に決めた女で、直治も屋敷に戻ってから初めて聞かされたらしい。
親父らしいと言えばそれまでなんだが、美鈴の方は昔から直治の事が好きだった。
美鈴は俺たちの遠い親戚に当たるんだ。
直治は女性関係には全く興味が無かったから、本人もびっくりしただろうね。」
くすっと笑いながら雄也は言った。
「ただ、組としては直治と美鈴が一緒になったほうが都合はいい。
美鈴は親父のお気に入りだし、直治もそろそろいい年だからね」
紗代子は雄也の話を聞きながら、心が痛むのを感じた。
そんな話、聞きたくなかった。
私も直治さんの事が好きになってしまっていたのだから。
「紗代子さん、直治は貴方と一緒になりたいらしい。それをあいつから伝えるように頼まれて来た。
貴方はあの屋敷で、親父を説得させる自信はあるのかな。
知っていると思うが、直治は組長になる人間だ。その中に身を置く事が出来るかい?」
雄也の紗代子を見る目はいつしか真剣になっていた。
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