第25話

しばらく考えて、紗代子はため息をついた。


大丈夫です。直治さんについて行きたいから。


そんな言葉が簡単に出る訳はない。

環境があまりにも違いすぎるのだから。


聞いた雄也も、紗代子にこれ以上何も言わずに、ずっと紗代子の顔を見ていた。


「今から少し時間あるかな?ちょっと案内したい場所があるんだ」

突然、雄也は紗代子に言った。


明日は昼からの勤務だったので、紗代子は雄也の誘いに頷いた。


喫茶店を出ると、雄也は手を挙げてタクシーを止めた。


「まだ間に合ったらいいけど」


彼は運転手に行き先を言った。

そして、急いで欲しい旨も告げた。


(何処に行くんだろう)

紗代子は不思議に思っていた。


タクシーの横に座って時計を眺めている雄也を

チラッと見た。

直治さんの血の繋がらないお兄さん。。


直治とは顔立ちが全然違う。

それでも、雰囲気はどことなく似ている。

育った環境がそうさせているのだろうか。


考えながら彼を見ていた紗代子と、ふと目があった。

くすっとまた雄也は笑った。


タクシーが止まり、2人は車から降りた。


急いでいたのか、雄也は紗代子の手をいきなり握り、走り出した。


「え?」


びっくりした紗代子。


たどり着いた所は、海岸沿いだった。


「なんとか間に合った」

子供みたいにはしゃぎながら雄也は指をさした。


「海辺の夕焼けだよ、綺麗だろう」


紗代子もこの景色に釘付けになった。


「なんて綺麗」

思わず紗代子も声に出していた。


「悩んだりした時は、よく此処へ来るんだ。

悩みなんてちっぽけに思えてくるんだよ」

雄也は紗代子に言った。


ほんと。。なんだか心が落ち着く。


「素敵。。本当に素敵」紗代子は笑顔を見せた。


一瞬雄也はどきっとした。


二人でこうして手を繋いで夕焼けを見ている事も不思議だったが、そんな事はどうでもよかった。


紗代子は海辺の砂を触ろうと、雄也の手を離そうとした。

しかし、何故か彼は握った手を離そうとしなかった。


「あの、。雄也さん?」


紗代子は雄也に手を離してと言おうとした時に、雄也が答えた。


「貴方を離したくなくなってきたよ。

紗代子さん、直治じゃなく私と付き合わないか?」


いきなりの雄也の告白に、紗代子はびっくりして体が硬くなってしまった。


「私なら貴方を悩ます事はしない」


雄也は握った手を自分の方に引き寄せると、紗代子の体を抱きしめた。

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