第26話
その頃直治は、紗代子がこの屋敷での事をどう思ったのかが気になっていた。
そして、自分の世話をしている美鈴。
組が勝手に決めた許婚に、直治は怒りがこみ上げてくるのだが、美鈴は何も悪いわけではない。
彼女もまた、自分の運命を組に決められた立場なのだ。
「直治様、失礼します。」
美鈴がお茶を持って部屋に入って来た。
いつも小綺麗にして直治に気に入られようと懸命に努力をしている美鈴。
彼女は大好きだった直治の側にいられる幸せを噛み締めていた。
しかし、直治にはそんな美鈴の気持ちなど無尽もなかった。
紗代子に会う前も、親父は幾度となく伴侶の話を持ちかけてきた。
それは組の安泰の事を考えての事でしかない。
直治は何人かの女性と付き合ってはみたが、自分が組長になる人物だからという事で側にいる女性達。
お互い愛など何もなかった。
美鈴もある意味そんなものなんだろう。
直治はそう思っていた。
「美鈴、私はお前のおかげでだいぶ良くなった。すまなかったな。
後は男衆に任せるから、もう自分の家に帰れ」
直治はお茶を飲みながら美鈴に言った。
一瞬美鈴の顔が青ざめたように見えた。
「直治様、そんな事おっしゃらないで下さい。
私はいつまでも直治様のお世話をしていきたいのです。
直治様は美鈴がお嫌いですか?」
美鈴は必死だった。
直治はため息をついた。
「お前は親父が決めた許婚だと聞かされた。しかし、私は許婚など考えていない」
直治は冷やかに言った。
「それは、紗代子さんがいらっしゃるからですか?直治様は紗代子さんがお好きなのですよね」
美鈴は続けて言った。
「私は、昔から直治様のことを好いておりました。組長から直治様の話を聞かされた時は、嬉しくて。。私の心はもう直治様のものです。
組の為にも私の家系が必ずお力になれます。」
「すまないが、私はお前を伴侶にとは考えられない。」
美鈴の懇願に、直治は答えた。
「好きにならなくても結構です。愛人としてでも良いと思っておりました。
どうか美鈴を側に置いてください。
紗代子さんには私から、許婚だと伝えました。」
「何だと?紗代子と話をしたのか?」
直治は声を荒げて言った。
「申し訳ありません。紗代子さんには直治様の事を諦めて欲しかった。私の正直な気持ちです。」
美鈴は直治に近づいた。
直治の怒りが伝わってきたが、構わず直治に抱きついた。
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