第55話

「組長、私は紗代子と結婚出来なければ此処を出ていきます。

それだけは覚悟しておいて下さい」

直治はそう言うと、紗代子を連れて部屋を出て行こうとした。


「直治、お前も雄也を少し見習って冷静に考えろ。

ところで紗代子さんは院長の所に帰るのかな?

雄也の嫁になる人だ。結婚までの間この屋敷に住んでみたらどうかね。

組のしきたりなど女中に教えてもらったらいい」


その言葉を聞いて、雄也はすかさず言った。


「組長、紗代子は私の所(部屋)で過ごさせます」


「雄也!いい加減にしろ!」

直治は雄也の胸ぐらを掴んだ。


「やめて!」

紗代子は2人の間に入って直治の行動を止めた。


「組長、お言葉に甘えてお部屋をお借りしてよろしいでしょうか?

色々分からない事は教えてもらいます。

それから雄也さん、私は貴方の部屋には行けません。御免なさい」


彼女は行くあてもなかったし、しきたりを知らなければ直治の側で支えられないと思った。


「そうか、式までは確かに心の準備がいるだろう。雄也も我慢だな」

組長は豪快に笑いながら言った。


直治はまだ雄也を睨みつけていたが、彼はそんな直治に見向きもせず紗代子の手を無理矢理握むと一緒に部屋を出ようとした。


雄也の強引な行動に紗代子は強く拒んだ。

その掴んだ手を直治が奪い返した。


「直治さん、私なら大丈夫」

紗代子は直治の顔を見て笑って見せた。


「雄也さん、話をしましょう。

私の気持ちをちゃんと聞いて欲しい。」

紗代子は雄也に向かって言った。


彼は冷たい顔で彼女を見つめながら


「私の部屋に来るといい。そこで聞こうじゃないか」

そう言って紗代子について来いと言わんばかりに歩き出した。

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