第31話

雄也もまた自分の部屋で、紗代子の事を考えていた。


雄也のスマホには、何度も直治からの着信履歴が残っていた。


直治とは血が繋がっていないし、母親同士も余り関係が良くなかった。


小さい時から周りから比べられてきた雄也。

本妻の直治の方が、皆から可愛がられていたように思えた。


直治に嫉妬心が無かった訳ではない。


自分も組長の息子なのだ。


だが、そんな事など関係なく直治は雄也を兄と呼び、いつも自分を頼ってきた。


周りの目を気にしていたのは自分自身だった。


直治は組長になる気持ちも、母親の言いなりになる事も嫌がった。


「組は兄貴が継いだらいい。俺はここを出て普通に生きていきたい」


彼はいつしかそんな気持ちを雄也に語っていた。

直治の母親は何度も説得していたが、聞く耳を持たなかった。


彼女は、雄也と彼の母親に相談に来た時もあった。


直治の母親はどうしても直治が組長になって、イナス組を継いで貰いたかったようだ。


愛人である母は、自分は何も出来ない事、決めるのは組長だと言い切った。


雄也の方にも頭を下げてきたが、母親と同じ気持ちだと告げた。


決めるのは組長である父親。


それは、誰もがわかっている事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る