第32話
紗代子はいつものように看護師として忙しく働いていた。
直治の事は気になっていたが、雄也が現れてから生活は一変してしまった。
病院から帰宅する紗代子を、彼が迎えに来て食事に誘う事が増えていたのだ。
直治のお兄さんを邪険には出来ないし、院長も彼を気に入っている。
紗代子は雄也の誘いを断る事が出来ずにいた。
そして、彼と過ごす時間が増えていった。
直治の事を雄也に聞いても、雄也は話しをしてくれず、美鈴と仲良くやっているんじゃないかと茶化すだけだった。
フランス料理の食事を終え、寮に帰る車の中で雄也は走りながら言った。
「最初は直治に言われて紗代子さんに会いに来たが。。直治の事は忘れて私と一緒になって欲しい。きみへの気持ちは本気なんだ」
雄也は真剣だった。
「あの、、私は病院で直治さんと約束したんです。一緒になろうって。
私は彼の言葉を信じています。」
紗代子は頑なに拒んだ。
「君はイナス組のしきたりを知らないからそう言えるんだ。院長だって直治と君が一緒になる事なんて絶対に望んではいない。イナス組を良く知っている院長だからこそそう思っている。
院長にはもう私の気待ちは伝えている。とても喜んでくれたよ。
紗代子さんも、院長を父親のように慕っているんじゃないのか?
私もそう思っている。私なら必ず君を幸せにする自信がある。直治には無理だ」
雄也は車のスピードを速めた。
「や、やめて。かなりスピードが出てる。雄也さん落ち着いて。」
紗代子の言葉を無視して更にスピードを上げ、寮ではなく、高級ホテルへ車を寄せた。
「あの、、ここは?雄也さんどうしたの?」
紗代子は雄也を見た。
「今日はここで部屋を取っているんだ。一緒にそばにいて欲しい。」
雄也のいきなりの行動に、紗代子は言葉が出てこなかった。
(直治さん、私どうしたらいいの?助けて。。)
紗代子の目から涙が溢れてきた。
雄也は紗代子の様子を見て、拳を握りしめた。
一瞬ため息をつき、車から降りて助手席を開けた。
「大丈夫、何もしない。約束する。
ただ、今日は一緒にいて欲しい。それだけでも嫌かい?」
雄也は優しく声をかけ、紗代子へ手を伸ばした。
しばらく躊躇っていた紗代子だが、悲しそうな顔をした雄也を見て彼の手を借りて車を降りた。
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