第30話

遅い、何故雄也からなんの連絡も入らない!

一体何をしているんだ!


直治は紗代子の事が気になって仕方がなかった。

しかし、雄也からは何一つ連絡が入らないのだ。


トラブルでもあったんだろうか。


いや、雄也は完璧すぎる男だ。

それはあり得ない。


考えれば考える程苛々が募る直治だった。


まさか雄也が、紗代子の事を気に入ってしまったとはこれっぽっちも疑っていない直治は、明日にでも男衆に雄也の所に行かせようと考えていた。


紗代子はきっと、美鈴の事を誤解しているに違いない。


自分で直接会いにいけるのならどんなに楽だろうか。


身体もまだ本調子ではないし、親父や美鈴が側にいるせいで、屋敷から一歩も出ることが出来ないのが疎ましかった。


次の院長の診察までには時間がありすぎるし、美鈴がいる事で、今度は紗代子が来ない可能性もあるのだ。


全く、私をこんな気持ちにさせる女なんて初めてだ。


直治はため息をつきながら、ふっと自分自身が振り回されている事を面白く感じていた。


今度紗代子に会ったら、どうしてくれよう。

抱きしめて、嫌がっても決して離しはしない。


直治はそう心に決めていたのだった。

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