第52話

直治様が戻られるらしい。

直治の電話で組内では動揺が走っていた。

組長の機嫌が未だ悪い状態で、皆ピリピリしていたのだ。


それとは別に、女性を連れて戻ると聞かされた事で、皆何が起こっているのか分からなかった。


そんな中で女中達だけが淡々と仕事をこなしていた。


「若手の男衆はこんな時は役に立たないね」


昔から使えている女中のフネは、動揺する若造達に呆れながらも直治の帰る準備をした。


組長も直治も昔から頑固なのを知っているフネは、いつもの事だと言わんばかりに玄関先に向かって車を待っていた。


後から男衆も玄関先に並び出した。


しばらくして、直治と紗代子を乗せた車が屋敷内に入ってきた。


玄関先に付き、助手席を開けて直治が出てくると、続いて紗代子が現れた。


屋敷には看護師として来た事があった紗代子だが、今回は立場が違う。

彼女は男衆の出迎えにドキドキしていた。


直治はそんな紗代子に気付いたのか、そっと手を繋いで歩きだした。


家の中に入る前に、フネの姿を見つけて立ち止まった。

「フネ、今日から此処に住む私の嫁になる娘だ。宜しく頼む」


直治にそう言われ、彼女は分かりましたと頭を下げた。

紗代子も同時に頭を下げた。


とても優しそうな高齢の女性に見えた。


(どうしよう、ドキドキする。美鈴さんは何処かにいるのかしら)


紗代子は美鈴の事が気がかりだった。

彼女も直治を愛している。

ましてや許婚でもあるのだから。


「紗代子、今から組長に会いに行く。

お前の紹介と、結婚を認めてもらう」


直治はそう言うと、何も心配しなくていいと言っているように彼女の手を強く握りしめた。

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