第53話
「組長、今戻りました。お話があります。」
直治はしっかりとした口調で部屋の前に立った。
「入れ」
中から低い声がして、直治は部屋の引き戸を開けた。
何帖ぐらいあるのだろうか、広い部屋の奥に怖そうだが威厳のある男が脚を組んで座っていた。
紗代子はその姿を見て心臓が張り裂けそうになっていたが、直治はびくともせず歩きだした。
組長の近くまでくると、紗代子の手を引っ張り2人並んで座った。
彼は厳しい目つきで直治を見つめ、紗代子の方は見ようとはしなかった。
「色々ご心配おかけ致しました。組長に私の決めた伴侶を連れてまいりました。
彼女と結婚したいと思っています。」
直治は真剣な顔で組長を見つめて言った。
「直治、お前には美鈴というわしが決めた許婚がいる。他の女性など認めないと言ったはずだ」
「美鈴はあなたが勝手に決めた縁談です。私の気持ちは紗代子にあります。彼女以外私は結婚致しません。」
「紗代子、というのか?」
組長は初めて彼女の方を見た。
凍りつきそうな冷たい目つきだった。
この人がお父様。。
紗代子はその目つきに恐怖を感じた。
でもどことなく直治に似ている顔立ちと、病院で見ていた彼の怖そうだが温かい目つきと同じ様な感じがした。
「紗代子と申します。直治さんの担当看護師をしておりました。」
声が少し震えていた。
組長は紗代子をじっと見ていたが、厳しい口調で言った。
「申し訳ないが、直治は次期組長になる男だ。
病院にいたのなら院長から色々聞いているであろう。あなたを嫁に迎える訳にはいかない。それとも愛人として生きるか」
直治は組長の言葉に殴りかかりそうになったが、それを紗代子が咄嗟に止めた。
「美鈴さんの事も直治さんが次期組長だという事も知っています。
私もかなり悩みました。
一度は諦めようとも思いました。
でも私は直治さんと生きていこうと決めました。この命かけて、、直治さんの側で彼の力になりたいのです。」
紗代子は今までの弱い自分ではなかった。
本当の気持ちをはっきりと組長に言った。
「私も彼女を認めて頂けなければ、組長にはなりません」
2人の気持ちは固かった。
その時、部屋の外が騒がしくなっていた。
「いけません、今組長は大事なお話をしています。」
男衆ともめている声。そして
「組長、入ります!」
大きな声と共にいきなりドアが開いた。
ドアの前に立っていたのは、義理の兄雄也だった。
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