第56話
雄也の部屋は屋敷内を渡り廊下で繋がった少し離れた所にあった。
部屋の大きさも直治の部屋よりはるかに狭く、直治と雄也の立場の違いが明らかにわかる。
雄也はあまりこの部屋では過ごしていない様で必要最低限の物しか置かれていなかった。
「この部屋を見てびっくりしたかい?直治の部屋とは比べ物にならないだろ。
これが次期組長とそうではない兄弟の違いなんだ」
雄也は何処か寂しげに言った。
紗代子は部屋の端に揃えてあった座布団を2枚向かい合わせに並べた。
さっきまでの冷たく少し荒々しかった雄也の姿はなく、病院で会っていた優しい雄也に戻っていた。
「失礼致します」
部屋の外から声がして女中のフネがお茶を持って入って来た。
「フネ、紹介するよ。
私のフィアンセの紗代子さん」
フネは先程直治に紗代子を頼むと言われた女中だった。
「そうですか。雄也様もやっと本命の女性を見つけられたのですね」
彼女は何事もなかったかのように笑いながら言った。
「フネ、そんな風に言ったら私が今まで散々遊んできたように聞こえるじゃないか。酷いなあ」
雄也は彼女には敵わないといった顔をして笑った。
「それではごゆっくりして下さい。一応離れのお部屋もご用意しておりますので」
彼女は頭を下げて部屋を出て行った。
「フネはね、昔からこの屋敷に仕えている女性で私の教育係だったんだ。
厳しいけどとても優しい人だよ」
直治もフネには信頼を寄せていた。この屋敷内ではなくてはならない人なのだろうと紗代子は思った。
「これで少しは私が直治と君を離した理由が分かっただろう?組では全てを組長が決める。他の意見など聞いてはもらえないんだ。
最初に言ったはずだ、直治と一緒になる覚悟はあるのかと」
「雄也さん、私院長に直治さんと一緒になる事を理解して貰いました。病院も寮も全て辞めて此処へ来ました。
直治さんについて行くと決めたんです。
雄也さんの優しさにはとても感謝しています。でも私はもう迷ったりしていません。
直治さんを愛しています」
紗代子は自分の今の気持ちを正直に雄也に説明した。
フネが持ってきたお茶を飲みながら雄也がため息をついて首を横に振った。
「組長に逆らう事はあってはならないんだよ。
直治は勝手な事を言っていたが、彼が組長を降りる事はない。
美鈴との結婚も決まっている。
紗代子さんの入る隙間なんて無いに等しい。君が苦しむのを見たくはないんだ。
私と結婚して欲しい。
私は君を愛してしまったんだ。
そして全力で君を守る」
雄也の気持ちも固かった。
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