第82話
マンションの横には案の定直人の車が停めてあった。
若葉はエレベーターの中でなんとか気持ちを落ち着かせようとしていた。
鍵を開けると、暗闇の中で椅子に腰掛けている直人が見えた。
「た、ただいま」
慌てて電気を付けると、不機嫌そうな顔をした彼が若葉を睨みつけて言った。
「今まで何処で何をしていた?」
「今日は休みだったから奈々達と遊びに行っていたの。遅くなっちゃった。あはは」
「若い娘がこんな時間まで遊び歩くのか?お前はいつからそんなチャラい女になったんだ」
「チャラいって。。ストレス発散も必要じゃない」
いつもの事だが、直人の説教はかなり長く反論も出来ない。
化粧を落としに洗面所に向かおうとした腕を強く握られ、真正面から上から下まで見られてしまった。
「今日は化粧も濃いめだし、普段は着ないスカートか?それにそのネックレスはどうした?」
ネックレスと言う言葉に一瞬顔が真っ赤になってしまった。
でもここで動揺したら全てがバレてしまう。
若葉は直人の顔を見ないようにして口をつむっていた。
「お前は嘘がつけないな。男と会っていたのか。ロクでもない男だな」
「ち、違う。拓也はそんな人じゃないよ!」
あ。。言ってしまった。。
「拓也ってあいつか。まだお前にちょっかいを出してきてるのか?」
掴まれた腕の力が強くなって、若葉は思わず痛いと叫んだ。
それでもその力が緩む事がなく、直人の怒りが腕から伝わってきた。
「兄さん離して。。ちゃんと話をさせて。
彼はこの間のお礼がしたいって食事に連れて行ってくれただけだから」
「食事だけでこんな時間まで遅くなるのか?
下心があるに決まってるだろ。」
「どうしてそんな事言うの?
兄さんだっていつも女性とデレデレ話してるじゃない!見ていて不快だわ!
とにかく明日仕事だからもう帰って!
兄さんには私の気持ちなんて分からない!」
若葉は反対の手で近くにあったコップを握り彼の胸を思いっきり叩いた。
叩く度にすごい音がしたが、何度叩いてみてもびくともしない。
どうしてこんな事をしているのだろう。どうして理解してくれないのだろう。。
虚しさで涙が溢れてきた。
直人はそれに気付いたのか、握られていた腕が離され深いため息が聞こえた。
「俺の気持ちもお前は理解していない」
そう吐き捨てるように言うと、直人は部屋から出て行った。
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