第63話

屋敷では相変わらずしきたりに対する勉強が続いていた。

彼女の控えめだが芯の強い性格に、女中達や男衆達も親しみを抱かせている。


その噂は勿論組長にも伝わっていた。


そんな中、紗代子の所に雄也が突然現れた。


「すまないが今から彼女を私の自宅に連れて行く。母親が会いたがっているんでね」


フネが止めると、私の婚約者だと言わんばかりに冷酷な顔をしてフネを睨みつけた。


たとえフネと言えども女中でしかない。

組長の息子の言葉には逆らえないのだ。


紗代子はフネの前に立ち、彼女を庇った。

雄也は彼女がフネを庇う事は充分わかっていた。

その優しさも計算していたのだ。


紗代子は仕方なく雄也に従った。


雄也が運転する車に乗り込み、いつもの様に明るい顔で彼女に話しかけた。


「母がずっと君に会いたがっていたんだ。

邪魔が入って中々連れて行けなかったけどね」


(邪魔って、直治さんの事を言っているのかしら?)

紗代子は呆れていた。


「私はお母様に何をお話したら良いのでしょうか?」


「君は何も言わなくてもいいよ。隣にいて微笑んでいて欲しい。


「でも私は雄也さんと結婚は出来ないわ」


紗代子のその言葉に雄也の顔が一瞬歪んだ。


車のスピードが急に勢いを増した。

彼女は心臓がドキドキしてきた。


「怖かったら怖いと言えばいい。君の願いはなんでも叶えるから」

雄也の楽しがっている声がする。


紗代子は彼の冷酷な性格を嫌という程知っていた。

手を握り締めて怖さに耐える。

その手を雄也の手が包み込む。


(怖い、、直治さん)


キキーッ

車は平坦な道をそれ、林の中に急ブレーキをかけて止まった。


紗代子は真っ青になって震えていた。


雄也はゆっくりと彼女のシートベルトを外し、涙を浮かべている身体を抱きしめた。

放心状態の紗代子の身体は勝手に雄也にしがみ付いてしまう。

その彼女の仕草を愛おしいと思う雄也。


「怖かっただろう?君の負けん気の強い所も好きだか、こうやって抱きしめてくる君が1番愛おしい。

前にも言ったが私を怒らせないでくれ」


雄也は抵抗しない紗代子を優越感に浸りながらきつく抱きしめてキスをした。

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