第80話

ビルの屋上は展望台のようになっていて、そこにはカップルが沢山来ていた。

若葉が夜景に釘付けになっていると、頬に冷たい物が当たった。


振り向くと、拓也がアイスコーヒーを持って立っていた。


「いつの間に買って来たの?」


「若葉があんまり夢中になっていたからこそっとね。夜景がそんなに珍しい?」


「普段こういう所来ないから。凄く感動してるの。連れて来てくれてありがとう」

アイスコーヒーを受け取りながら嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあさ、今度若葉が行きたい所連れて行ってあげるよ。何処に行きたい?食事も若葉が食べたい物食べに行こう」


彼女が返事をしようとした時に、拓也の顔が近づいてきて軽く唇にキスをされた。


えっ、何?どういう事?

そうか。アメリカに住んでいたんだもん。

挨拶替わりのキスよね。


ドキドキしながら顔を背けると、隣にいるカップルは本格的なキスを交わしていた。


ここでまた奈々の言葉が頭を過ぎる。


(子供じゃあるまいし)



「若葉、後ろを向いて」


「は、はい」


赤面したまま言われた通りに後ろを向く。

夜景越しに彼の真剣な顔が映っている。


今にも心臓の高鳴りが聞こえてきそうで、

恥ずかしさのあまり目を閉じてしまった。


彼の両手が髪の毛に触れ、彼女の首にそっと何かか付けられたのを感じた。


えっ?


思わず目を開けると星形のネックレスがはめられていて、髪を戻すタイミングで頬にキスをされている自分が映っていた。


「大した物じゃないけど受け取って。

あのやけになってぶっ倒れた時になんどか熱でうなされて。。

でも何故か温かい手の感触が伝わってきたんだ。目を覚ましたら若葉がいてくれた」


拓也は後ろから手を回してきた。


「今日一緒にいてずっと側にいて欲しいと思った」


これって。。


「付き合って欲しい」


彼の言葉に唯々動揺していた若葉だったが、自然と後ろから回されている手を強く握り返していた。

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