第28話

その事があって以来、美鈴は直治の事が頭から離れなくなっていた。


イナス組の屋敷に住んでいる直治という少年。

強引だったけれど、私の命の恩人。


美鈴は父親に直治の事を聞いてみた。


すると、父親は美鈴の顔をじっと見つめて

「直治様に惹かれたのか?」

父親は美鈴に尋ねた。


惹かれたと言われて、美鈴の顔は真っ赤になってしまった。


その様子を見た美鈴の父は、微笑んで言った。

「直治様は、お前に相応しいお方だ。いずれお前と結婚するべき相手なんだよ」


美鈴は突然の事にびっくりしてしまった。


「なぁに、驚く事はない。

私はお前が直治様と一緒になる事を心から望んでいるんだよ」


美鈴が直治と一緒になる事は、美鈴家にとっても大事な意味があった。


直治はまだ若く、伴侶をもつ年齢ではないが、いつかイナス組の組長になるやもしれない立場の男だからだった。


イナス組の組長には何人かの子供達がいる。


本妻の直治、愛人に産ませた子もいる。誰が後を継ぎ、組長になるのかはまだわからない。


だが美鈴の父親は、できれば本妻の子である直治が組長になるべきだと考えていた。

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