第50話
車の中で直治は紗代子に言った。
「もう看護師の仕事を辞めて屋敷に来て欲しい。私の側にいて看病をして欲しい。
親父にはきっちりと話をするつもりだ」
紗代子はその言葉を聞いてしばらく考えていた。
「嫌か?美鈴の事が気になるのか?
彼女は親父が勝手に決めた許婚だ。
私の気持ちは何も変わっていない。」
「違うの。凄く。。嬉しいの。
私もう直治さんに会う事が出来ないんじゃないかって。。でもこうやって私の所に来てくれた。でも。。」
紗代子は今まで泣いていた涙を拭きながら首を横に振った。
「明日から勤める老人ホームの事や、病院と院長にきちんと話もせずに直治さんの所へは行けない。」
紗代子はそう答えた。
多分直治は彼女がそう言うだろうと予想はしていた。
しかし、雄也が紗代子の近くにいて、親父も紗代子の存在を知ってしまった以上、彼女の身に危害が加わるかも知れない。
そう考えている直治は、紗代子に向かって優しくも半ば強引に言い聞かせた。
「紗代子、老人ホームと院長の所は私も一緒に行こう。話をしてわかって貰おう。
今回の雄也の事も美鈴の事も、これ以上お前を1人にしていたら何があるか分からない。
さっきも言ったが、もうお前を離さない。
私にこれ以上心配をさせないでくれ」
紗代子は真剣な直治の言葉に、この人について行こうー、そう心から思いコクンと頷いた。
そして直治は急遽車を老人ホームに向かわせた。
その頃、ホテルでは紗代子の荷物を受け取りに部屋にいた智徳とそこにやって来た雄也が鉢合わせになっていた。
「久しぶりだな智徳。直治の命令で此処に来たのか?」
雄也は智徳を睨みつけて言った。
「雄也様、ご無沙汰しております。
組長が雄也様の事を心配されていらっしゃいました。
たまには顔を見せろと。。」
智徳は頭を下げて答えた。
「組長が?私の事を?」
雄也は大声で笑った。
「私の事など何も考えてはいないだろう。お前もわかっている筈だ。
それより、中立の立場のお前がこんな所まで来るとは。
直治も偉くなったものだな。もうお前を手懐けたか。」
紗代子の荷物を手に持っている智徳の姿をじろじろと見ながら、雄也は言った。
「紗代子は私がもらう。直治には渡さない。
その荷物を置いて此処から出ろ」
(雄也様)
智徳の額から汗が滴り落ちた。
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