第49話
「若葉、大丈夫か?」
父と母の手紙のやり取りをずっと読んでいる彼女に、直人が心配した顔で尋ねた。
「お母さんもお父さんも、お互いに愛し合っているのに。。次期組長というだけでこんな風に反対されて離れ離れにされて。。可哀想。」
若葉は組織の事は何一つ知らされずに生きて来た。
この世界の事は何もわからない。
お母さんに昔の話を聞いた時に複雑な顔をしていたのは、お父さんとの思い出と共に組織の事も思い出していたのかもしれない。
若葉はそんな感じがした。
考えている彼女に、直人がコーヒーを入れて持ってきた。
そして横に座った。
「直人兄さん、お母さんはひょっとして組織から命を狙われていたの?私とお母さんはこの組織に、、お爺様に嫌われていたの?」
若葉の問いかけに、コーヒーをゆっくり飲みながら直人は真剣な面持ちで答えた。
「若葉、確かに若頭と女将さんは組織からは歓迎されなかった。
若頭には既に決められた許婚もいたし、義理の兄雄也。。さんも女将さんを愛してしまっていたのだから。
でも、2人はそれを全て乗り越えて一緒になったんだよ。
もう誰も2人を止める事は出来なかったから」
若葉は直人の返事に少し安堵した。
「組織の中ではお前が知らない事が沢山ある。イナス組の組長、お前のお爺様はもうかなりお年を召された。
若頭を失って女将さんやお前も他界した事になっている今、次の組長争いが水面化で行われている。
もし若頭の娘が生きていると分かると、お前の人生はかなり変わっていくだろう。女将さんはお前には普通の生活をさせたがっていた。
私も今のままの若葉でいて欲しい」
直人の顔は真剣だった。
「直人兄さん、私はお母さんが私をずっと見守ってくれたから今まで生きてこれたの。
直人兄さんにも感謝してる。
私もこの生活をずっと続けて行きたい。
今ね、2人の手紙を読みながら思ってる事があるの」
若葉は直人が入れてくれたコーヒーを飲みながらニコッと笑顔を見せた。
「どうした?」
直人が聞いた。
「これからの事。
私専門学校に行って、お母さんみたいな看護師になるわ」
直人は若葉の嬉しそうな表情を見て、
「そうか。ずっと塞ぎ込んでいたから心配していたが、若葉がそう決めたのなら応援しないと駄目だな。」
「そうよ、これから大変!勉強しなくちゃ」
その姿を見つめながら、直人の心の中は複雑だった。
これから若葉は自分の存在を知ってしまうだろう。
その時彼女はどう思うだろうか。
直人はその事を考えて胸がズキッと痛んだ。
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