第48話

「直治さん、私。。私。。」


紗代子は泣きながら今までの事を話そうとしたが、直治はそれを遮った。


「話は後でゆっくり聞く。

此処は雄也の所持しているホテルだ。

今は此処から離れよう。お前の荷物は取りに行かせる」


直治は智徳に指示を出し、紗代子を連れて車に乗り込んだ。


「ふぅ」


直治は車の中で深いため息をついた。


「大丈夫なの?まだ傷も癒えてないでしょう。」


紗代子は直治の体が心配だった。


でも横にはずっと会いたかった人がいる。

こんなにも近くに。


紗代子の視線に気がついた直治は、彼女の手を握りしめた。


「心配するな。私は大丈夫だ。

それと、いくつか宿を押さえているから雄也の目は眩ませられる。

それにしても、雄也がお前を気にいるとは本当に腹が立つ。

それにお前も雄也に好意をもっているそうじゃないか。

私というものがありながら」


紗代子の手を強く握りしめて言った。


「痛い、直治さん。。違うの。

雄也さんが私に会いに病院に来るようになって。。院長とも仲が良くて。。そしたら急に告白されて。。」


紗代子はどう説明したらいいのか分からなかった。


「雄也は私の所にお前の服と下着を持って来た。

一夜を共にしたと言っていたが、それも本当なのか?」


直治は前を向いたまま問いかけた。


(服と下着?あの時のクリーニングの。。)


雄也はわざと紗代子の服を奪っていたのだ。

それも直治に見せる為に。。


「紗代子、お前の事だからのこのこ奴について行ったんだろう。もう少し自分を大事にしろ」


直治には全て見透かされている様だった。


確かに私はついて行ってしまった。。


直治の言葉に反論出来ずにいた紗代子に、


「雄也には私も騙された。信頼してお前の所に行かせた私の責任でもある。」


直治は一瞬悲しそうな顔をして言った。


「紗代子、もう私のそばから離れるな。

何処にも行かせない」


紗代子の方を振り向き、泣いて目の周りが赤くなっている彼女を優しく引き寄せたのだった。

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