第96話

「旦那様!」

女中達が慌てて頭を下げた。


旦那様と呼ばれたその男性は、若葉の方をじっと見つめていた。


驚いた事に、彼の雰囲気は直人にそっくりだった。


若葉は驚きながらも、側で倒れている勝の方に近づいた。


「なんて酷いことを。彼は何も悪い事はしていません。」


彼女は必死に勝の弁解をした。


「お嬢さん、此処では来客に餌やりをさせる奴を放っておく訳にはいかない。

人の心配をする前に自分の立場をわきまえる事だな」


彼はそう言うと男衆に勝を運ばせた。


「フネ、直ぐにこのお嬢さんの支度をしてくれ。組長が待っている」


そう告げて去っていった。


若葉はその場に立ち尽くしていたが、フネに促されて用事された着物に着替えた。


「あの。。カッチンはどうなるのでしょうか?」


「勝はしばらく蔵の中に入るでしょうね。

後は組長や直人様がお決めになられます」


心配で仕方がない若葉に、フネはさっきとは違った優しい言葉で答えた。


「さあ、出来ましたよ。


ご挨拶が遅れて申し訳ありません。

私はこの屋敷に古くから仕えるものです。

お嬢様は、、どこか私の知っている方に良く似ていらっしゃいます。」


フネがそう言って眼を細めた。


その言葉に、彼女は若葉の両親の面影を見ているのだろうと思った。

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