第11話
直治の唇はとても温かく、紗代子は夢の中にいるような気持ちになっていた。
考えてもみない出来事に、紗代子は戸惑いながらも自分からは振り解こうとは思わなかった。
どれぐらい長い時間唇を重ねていたのだろうか。
直治がそっと唇を離し、紗代子を軽く抱きしめた。
「直治さん、これはもしかして告白と言うものでしょうか」
紗代子は直治の胸の中で聞いてみた。
その瞬間直治の胸が小刻みに揺れている感じがして、紗代子は顔を上げた。
直治は笑っていた。
「告白か、そうだな。
私は紗代子にそばにいて欲しい。私の伴侶になって欲しいと思っている」
直治の顔を見て、改めて彼の唇の温かさを思い出して顔が赤くなってしまった。
「失礼します」
タイミングを見計らったかのように付き人の男性が部屋に入ってきた。
紗代子はさっと直治の側を離れた。
多分この場面は誰が見ても疑わしいと思わざる光景なのだろうが、男性は何事もなかったように直治に話しかけていた。
紗代子もそそくさと小さいキッチンに行き、冷蔵庫にあったフルーツをお皿に盛りつけた。
(私、告白をされてしまった。
キスもしてしまった。
落ち着け私、いきなりの事でびっくりしただけ。こういう場合は普通どうしたらいいのだろう。
返事は?私の気持ちは?)
フルーツをテーブルの上に置き、紗代子は無言で自分の部屋へ向かった。
チラッと直治の方を見たが、彼の顔は男性との話で険しくなっていた。
部屋に戻った紗代子は、さっき起こった出来事を考えていた。
冷静になった瞬間、ふっと頭をよぎった。
直治は組の若頭なのだ。
私は極道の妻になるという事?
彼がここにいるのも、そもそも命を狙われたからではないか。
そんな世界に私が入れるのか?
ひょっとしたら直治さんは私をからかったのでは?
私を愛人にしたいという事ではないのか?
紗代子の頭の中は疑問だらけになっていた。
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