第12話
紗代子の頭は真っ白になっていた。
どれぐらいぼーっとしていただろうか、隣の部屋から院長の声が聞こえてきて、紗代子は慌てて直治の元へ戻った。
「体調も良いみたいだし、明日から少しずつリハビリをしていきましょうか」
院長が直治に言った。
直治はしばらく黙って聞いていたが、ため息をつきながら
「いや、院長。申し訳ないがそろそろ帰らないといけない。
私がいないとまずい事になっているんだ」
真剣な、そして険しい顔で答えた。
(え、直治さんが居なくなってしまうの?)紗代子の胸がズキンと痛んだ。
院長もあえて直治を止めようとはしなかった。
何もかもわかっているような様子がした。
「分かりました。しかしまだ本調子ではありませんから、くれぐれも無理をなさらずに。」
院長は直治の肩を軽くさすりながら言った。
「紗代子君、後は頼んだよ」
院長はそう言うと、退院の手続きの用紙を取りに来るように紗代子に言って部屋から出て行った。
「若頭、体は大丈夫なんですか?もうしばらくゆっくり休んでいても組はなんとか」
男性の話に直治は首を横に振った。
「長いし過ぎた。あまり居心地が良いからお前達に心配をかけたな、明日組に戻る。
若い奴らに伝えてきてくれないか。迎えを頼む」
直治は早速今後の話をし出した。
紗代子はその話をじっと聞きながら、悲しさで押し潰されそうになっていた心を振り払い、
「退院の手続きをして参ります」
と言うのがやっとだった。
そして部屋から急いで出てきた。
今どんな顔をしているのか見られるのが嫌だった。
(さっき告白されたのに。。さっきキスまでしたのに。。)
紗代子は自分の気持ちが直治に傾いていたことを痛感した。
ただ、やはり私とは生きる世界が違い過ぎる。。
心の中で初めて味わう気持ちに戸惑いながら、
直治の事はなかった事にしようと心の中で叫んでいた。
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