第13話

「失礼します」


紗代子は退院用紙を持って戻ってきた。


部屋では、まだ男達と直治が話を続けていた。


紗代子は隣の部屋へ行き、机の中から一冊のノートを取り出した。


彼女が直治の為に、これからするであろうリハビリの仕方など書きこんでいたものだった。


24時間体制の直治のリハビリは、多分紗代子がやる事になるかもしれないと思っていたからだ。


(これ、まだ途中なのに。。)

紗代子はため息をついた。


隣の部屋からの話声が消え、バタバタと足音がし出したので、紗代子は直治の部屋に入った。


部屋には直治だけになっていた。


「お付きの方は?」


紗代子は直治に聞いた。


「あぁ、明日の用意をしないといけないからな。組に戻って支度を頼んだ。」


(明日。。)

紗代子は心がまた痛んだ。


「あの、、これ退院用紙です。明日までで良いので書いて頂けますか?

体調が悪ければ私が代筆致します。サインだけは直治さんでなければならないです。

後、このノートを差し上げます。」

直治の横に行き、用紙とノートを直治に渡した。


「わかった。このノートは?」


直治は受け取って中身を見た。


「直治さんのリハビリノートです。私の手書きなんですが、、

体調が良くなるとリハビリが始まります。

私は看護師で、リハビリの専門ではないので調べながら書き出してみました。

ご自宅に戻って、少しでもお役に立てればと思って。」

ペラペラめくってノートを見ている直治の顔を、紗代子は見ていた。


時々直治の顔がにこやかになるのを感じた。


ずっと見ていると、直治が紗代子の方を見上げた。


直治と目があって、びっくりして顔を横に背けた。

紗代子の顔が真っ赤になった。

穴があったら入りたい気持ちになった。


「ありがとう、大切にする」


直治の手が紗代子を引き寄せた。


「紗代子、今まで本当に世話になった。

君に会えて良かった。私は何度も死にかけている人間だ。自分の立場を恨んだ事もある。だが、君を見ていると何故かほっとする。」


直治は抱き寄せた紗代子の体をベッドへ倒した。

直治が紗代子に覆い被さる格好になった。


「直治さん?」

紗代子の力が抜けていく。


直治は紗代子の顔をじっと見つめ、唇を重ねた。

お前は私のものだと言わんばかりの激しい、熱いキスだった。


「愛している、紗代子。私の側にいて欲しい。私についてきて欲しい」


唇から紗代子の耳元へ移動した口元から、直治は紗代子に告白した。

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