第18話
朝食事を終わらせた直治の所に、複数の男性達が直治の着替えや段ボールなどを持って入ってきた。
見慣れた男性達もいたが、普段とは違う顔ぶれの男性達もいた。
みんな何か緊張しているようだった。
「若頭、着替えさせていただきやす。」
男性の1人がそういうと、紗代子をチラッと見て「後はこちらで行います」
と告げた。
紗代子はその男性に頭を下げて部屋を出た。
院長室にそのまま向い、朝の直治の容態と今の状態を知らせた。
院長は書き物をしながら紗代子の話を聞いていた。
院長室のドアをノックする音がして、彼は紗代子に目で合図をした。
紗代子はドアを開けた。
入ってきたのは割腹の良い男性で、直治の退院の用意が出来たと言いに来た。
(直治さん)
紗代子は心の中で思わず叫んだ。
院長室前の廊下を両肩を借りながら直治が現れた。
きちんとしたスーツ姿だが、歩き方もまだぎこちなく、やっと引きずって歩いている様子だった。
スーツ姿の直治はとても男らしく、凛々しく見えた。
院長も紗代子も廊下に出て直治の所へ向かった。
「院長、今まで世話になりました。」
直治は深々と頭を下げた。
「直治様、くれぐれもご無理をなさらないように。」
院長は彼に言った。
直治は紗代子の方にも深々と頭を下げ、顔を上げた。
付き人の1人が直治にサングラスをかけ、マスクをはめた。
病院の裏口には黒塗りの車が2台止まっていて、後車の後ろの席に直治は乗り込んだ。
物々しい雰囲気がする中、2台の車はゆっくりと走り始めた。
裏口には看護師長や事務室職員達もその場にいて、全員で頭を下げて車を見送った。
車が見えなくなると、それぞれ仕事場所に戻った。
紗代子も特別室の掃除と、自分の荷物をまとめ始めた。
掃除をしながら、部屋の中はこんなにも静かだったのかと寂しさを感じた。
どれぐらいの日々をこの部屋で過ごしてきただろう。
昨日の夜は直治とこのベッドで一緒に過ごした事を思い出した。
なんとも言えない、心にぽっかりと穴が空いたような、そんな気持ちだった。
院長が今日は休日を紗代子に与えたので、自分の荷物を整理してまた住んでいた寮に戻った。
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