第19話
直治が組に戻ってきた。
入り口には男衆が整列して彼を迎えた。
玄関にはこれでもかという程、胡蝶蘭が飾られていた。
直治はその中をゆっくり手を借りながら歩き、自分の部屋に戻る前に組長である父親の元へ向かった。
部屋に入り、組長に正座で挨拶をした。
「ただ今戻りました。ご心配をおかけしました」
直治はゆっくりと言った。
組長は盃を用意させており、直治に近くへ来るように促した。
「よう戻った。院長には世話になったな。
無事で良かった」
組長はそう言いながら男衆に酒を注がせ、直治と杯を交わした。
お互い勢いよく注がれた酒を飲み干した。
直治が不在の間、父親である組長、直治の兄弟達が直治を襲った組に逆襲をした。
何人かの男衆が犠牲になったことを入院中に聞かされていた。
その事を直治が話しだすと、
「何も心配はいらん。
今日は疲れただろう、しばらくは体を休めろ」
組長はそう言うと、部屋に女性をよこした。
「失礼致します」
控えめな、着物姿の女性が入ってきた。
直治より少し歳が上だろうか、どこか色気のある綺麗な顔立ちの女性だった。
「今日からこれにお前の身の回りの世話をさせる、挨拶をしろ」
組長から紹介され、女性は頭を下げた。
「美鈴と申します。組長から直治様のお世話を命じられました。なんなりとおっしゃって下さい。」
美鈴は直治の顔を見て会釈した。
「分かりました。今日は失礼致します。」
直治は組長にそう言って立ち上がろうとした。
早速彼女は手際良く直治の手を取り、彼の部屋に行く手伝いを始めた。
側にいた男衆もさっと場を離れた。
組長の部屋を退出し、廊下を美鈴と歩いていた直治は、無意識に美鈴を観察していた。
着物がよく似合い、束ねた髪、うなじが男性にはたまらない色気を感じさせる。
どことなく直治に自分の胸を押しつけてきている節があった。
(ははぁ、親父はこの女を私に差し出すつもりだな)
直治はそう思った。
美鈴の柔らかい手で、一瞬紗代子の事を思いだす。
紗代子は今何をしているのだろうか。
直治は愛おしさがこみ上げてきた。
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