第92話

いや!


こんなのいつもの兄さんじゃない。

拓也の事で冷静さを失っているんだ。


「私は兄さんと結婚なんて出来ない。兄さんだって私の事を愛してなんていないのよ」


若葉は直人の腕から強引に離れ、違うと言いながら首を横に振った。


「俺はお前しか愛せない。


確かに最初は女将さんと小さいお前を守ることしか頭になかった。


でも成長して次第に綺麗になっていくお前を、いつしか女として見ていたんだ」


直人はため息を吐きながら言葉を続けた。


「俺が悪いんだ。

早くこの気持ちをお前に告げるべきだった。

そうしたらあんなエドヤ組の奴にお前を奪われずに済んだ。」


初めて拓也を見た時の奴の目、気付くべきだった。


「違うの。私は。。彼を看病している時から何処かの組の人だと知っていたの。

あの人の身体には刺青が彫られていたから」


「なっ!

今何を言っているのか分かってるのか?

お前はイナス組組長の孫なんだぞ!それを知っていて奴と会っていたのか!」


直人の声が荒々しくなってきた。


「彼は組なんて継ぎたくないって言ってた。無理矢理連れ戻されただけだって。

私のお父さんと同じ、自由な生き方が出来ない人。。」


若葉は、拓也の生き方と両親とを重ねて見ていたのだ。


拓也自身、私の事をイナス組の人間だとは夢にも思っていないだろうし、もしこの事を知ったら彼はどうするのだろう。


エドヤ組がお父さんを殺した。。


考えれは考えるほど、頭が割れるようにズキズキと痛みだしていた。


しばらくして直人の携帯電話が鳴り、それと同時に玄関のドアを叩く音がした。


「奴の話は後からゆっくり聞かしてもらう。

これからお前の生まれ育った屋敷に行く。」


直人はそう言うと、若葉をベッドから引きずり下ろした。

そして、剥ぎ取った服を拾い集めて彼女に渡した。

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