第34話

34階でエレベーターが止まり、ドアが開いた。

雄也は紗代子の唇から自分の唇を離した。


「ごめん、悪ふざけがすぎたね。」


雄也はそう言うと、紗代子の手を掴んだまま廊下を歩きだした。


強引だった雄也が普通に戻って、紗代子はほっとした。


突然唇を奪われて紗代子は抵抗すら出来なかったからだ。


ホテルの廊下は高級絨毯がひかれているのか、歩く度にフワフワした感じだった。


直治の特別室での長期入院や、立派はお屋敷。

直治の兄である雄也も、多分お金に不自由はしていないのであろう。


母子家庭で普通に育った紗代子には、直治が現れてから知らない世界ばかり見ているように思えた。


このまま雄也と一緒にこのホテルで共に過ごしていいのだろうか。

少し強引な雄也の言葉を、どこまで信じていいのか分からなかった。


長い廊下を歩き、一番奥の部屋に着いた。

部屋のキーをかざすとドアが開き、雄也は紗代子の手を引いて先に中に入らせた。


広々とした部屋にソファと大きなテーブルが目に入った。


「この部屋は、よく仕事をする時に使うんだよ、落ち着くんだ」


雄也はそう言うと、ドアを閉めた。


そして、窓の所まで歩いてカーテンを開けた。


「紗代子さん、来てごらん。夜景が綺麗だよ」


部屋の中で固まっていた紗代子に、雄也は優しく声をかけた。


紗代子は、極力雄也の側には行きたくなかった。


「夜景、此処からでも見えます。」

曖昧な返事を返し、紗代子はその場から離れずにいた。


雄也は彼女の気持ちがわかっていたようだった。


「隣がベッドルームでその奥にバスルーム。

この部屋にもバスルームがあるから紗代子さんは向こうのバスルームを使うといいよ。」


そう言いながら彼はソファに腰を下ろした。

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