第66話

それから、何故か紗代子は組長の部屋へ度々呼ばれるようになった。

最初は点茶の依頼から始まり、ちょっとした組同士の話し合いにも出席するようになっていた。


そして露天風呂にも現れ、3人で話をする事が多くなった。

この事はさすがに3人だけの秘密になっていたが。


「全く、エロ親父にはどうしようもないな」


直治は組長が出た後、呆れてものが言えない顔をする。

紗代子はそれを見ては笑うのであった。


とても怖い感じの方だと思っていたけれど、最近はお茶目な一面も紗代子は知っていたのだ。


「親父が紗代子といるのはちょっと妬けるけど珍しい事だよ。あまり女性を寄せ付けないから。

後は2人の監視かな。雄也は此処には来れないし」

直治は勝ち誇った様に笑い、紗代子を抱きしめてキスをした。



しばらくして雄也と紗代子のお披露目会の日が急に決まった。


直治がどんなに抗議をしても決して休止になる事はなかった。

もちろんその会は盛大に行われる予定で、直治は上座に席を設けられ、美鈴の親族も招待されていた。

この時に直治と美鈴の結婚も報告されるのではないか、と噂にもなっていた。


紗代子の気持ちも届かない組織でのしきたり。

ただ直治はある事を考えていた。

紗代子を連れて屋敷を去ろう。

自分の気持ちはもう決まっているのだから。



屋敷内では紗代子の着物の準備や参列者の用意など忙しくなっていた。

一方で

雄也は中々紗代子に会えずにいた。


彼女の周りにはいつも女中達がいて、準備が忙しいと言われると何も返答できないのだった。


お披露目会さえ済めば彼女はいつも側にいるのだからと、仕方なしにその日を待っていた。


そしてそのお披露目会当日。


紗代子も直治と同じ事を考えていた。

雄也と一緒になる事は出来ない、ならばこの屋敷を出て行くしかないのだ。


朝早くに逃げ出そうとしていたが、まんまとフネに見つかってしまった。


「お嬢様、お召し替えの時間です。

誰もが羨むようなお姿にと旦那様からのご指示ですよ」


フネはニコニコしながら紗代子を衣装室に連れて行った。

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