第67話
紗代子はどうか逃して欲しいと泣きながら懇願した。
私の気持ちは雄也にはないのだと。。
フネは困った顔をしつつも衣装室に座らせ、おにぎりとお茶を差し出した。
彼女は紗代子がこの屋敷から逃走しないように皆で監視していた事、お披露目会までは直治、雄也共に会わすなと旦那様からの言いつけがあった事を話した。
全て見透かされていたのだ。。
紗代子は項垂れた。
フネは今日彼女が着る着物を見せた。
「お嬢様が屋敷に来た時から、許婚のお立場で有りながらも私達に気軽に接して下さるお姿にとても癒されました。
お嬢様は今日このお着物を着て愛しているお方の側にお行き下さい」
「でも私は雄也さんを愛してはいないのです」
紗代子は首を振りながら泣いている。
フネは紗代子をそっと抱きしめ、耳元で呟いた。
「え?。。」
紗代子はその言葉に驚いた顔で彼女を見つめる。
「さぁ、ここからは私達がお嬢様をお姫様にして差し上げますからね」
気がつけば他の女中達も部屋に入って来て用意を始めていた。
直治の部屋には常に男衆が見張りをしていて出る事も許されない状態になっていた。
そして、中では女中達に組の紋章を付けた着物を着せられていた。
普段から整った顔に鍛えあげられた体は目を見張るものがあった。
ただ今の直治は怒り奮闘で、それを必死に押さえている顔はとても威厳のある姿に見え、見惚れてしまうほどだった。
「くそ、組長に会わせろ!」
男衆に命令する直治。
紗代子が雄也と一緒になる事は絶対にさせないと思っていた。
刻一刻と時間が進む。
多くの他の組長達が車で屋敷にやって来ていた。
このお披露目会では次期組長の披露もするとの事だった。
雄也も組の紋章入りの着物を着て母親と共に屋敷に来ていた。
直治とはまた違った哀愁漂う姿に、出席者の女性達からはため息が漏れていた。
「雄也様」
振り向くと、綺麗に着飾った美鈴が立っていた。
「おめでとうございます。雄也様が結婚なんて。小さい頃よく遊んで頂いたので、、お互い大きくなりましたね」
「美鈴こそ。綺麗だよ。直治はあんな奴だけど支えてやってくれ。私は直治とはもう昔のようには仲良くはなれないから」
美鈴は頷くと、会場の方に向かっていった。
(今日から紗代子と正真正銘の夫婦になるか。悪くないな)
雄也は嬉しそうな顔をした。
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