第9話
患者の名前を教えてはもらえなかったが、下の名前は直治ということだけはわかった。
まだ意識が回復していない直治に、24時間体制で看護していた。
「深い傷を負ってる状態なのにオペは施されていなかった。
これも院長とこの人達との間で話し合いが成立しているのだろう。
紗代子の賢明な看護で、男達も最初は紗代子と距離をとっていたが、段々と話をするほどまで打ち解けていた。
直治という人は組の若頭で、男達には雲の上の存在らしい。
いつも命を狙われていて、今回の負傷は避けれなかった事らしい。
この入院も極秘の事だという。
紗代子は極道の事はよくわからないが、他の患者様と同じ様に接するつもりだと男達に告げた。
しばらくして、直治がうっすらと目を開け、意識が回復したようだった。
付き添いの男が駆け寄って涙ぐんだ。
「お頭、大丈夫ですか。長い間意識不明で心配しやした」
直治はまだぼーっとしていて、ここが何処なのか辺りをゆっくり見回した。
「患者様、お気づきになられましたか?ここは病院の中です。
患者様はしばらく意識を失くされていたんです」
紗代子は直治の血圧を測りながら行った。
そして、急いでナースコールで院長を呼んだ。
「そうか、、私は助かったのか」
直治はまだ声が出にくいらしく、弱々しく話した。
院長が急いで部屋に入ってきて、紗代子に状態を確認し、内診をした。
「もう峠は越えましたよ。良かったです。」
院長はほっとした様子だった。
「いつも世話をかけるな、院長」
直治は院長の顔を見て起き上がろうとしたが、力が出ない様子で座る事が出来なかった。
「直治様、まだ起き上がるのは無理です。しばらくはまだ安静にしていてください。」
院長は紗代子のほうに合図をした。
紗代子は急いでお水を用意した。
「患者様、お水をお召しになられますか?お茶もご用意できます。
他のお飲み物はまだしばらく無理なので」
直治は紗代子の顔を見て「あぁ、看護師さんだな。色々迷惑をかけた」
一瞬優しそうに微笑む直治を見て、紗代子はドキッとして、点滴の方に目を向けた。
「何、凄く優しそうな感じの人。。」
「直治様、しばらくはゆっくりしてください。様子を見ながら食事も始めましょう。
こちらにいる看護師が担当になりますので」院長は紗代子を紹介した。
「患者様の担当をさせて頂いております。
何かありましたら、私は隣の部屋にいますので、何でもおっしゃって下さい」
紗代子は頭を下げた。
「すまない、ありがとう」
直治は丁寧に返事をした。
(極道の人って怖い感じがしたんだけど、そうでもないのかしら)
紗代子は内心ほっとしたのだった。
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