第44話

「雄也!」

直治は座っていたソファから立ち上がった。


「まだ本調子でもないのに出歩いて大丈夫なのか?彼女の事が気になってそれどころじゃないか」


「雄也、お前の勝手にはさせない!

紗代子に会って本心を聞きに来た。」


雄也と直治は睨みあった。


「残念だか、紗代子さんには会えないよ。

しばらく彼女は私の所にいる事になったから」


「なんだと?紗代子を何処にやった!」


「お前にいう権利はない。さっきも言ったはずだ。紗代子さんの事は忘れろ。お前は美鈴と一緒になって組を継ぐ人間だ。紗代子さんが組長の嫁になって幸せにはなれない。

私が彼女を幸せにする。彼女もそれを望んでいる」

雄也は言った。


(紗代子が?紗代子が雄也との事を望んでいるだと?)


直治は信じられなかった。


「とにかく屋敷に帰れ。ここに来ると院長にも迷惑がかかる。

組長だってお前の外出を許した訳ではないだろう」


雄也は男衆を睨みつけ、直治を部屋から出すように目で合図をした。


雄也も組長の息子である。

男衆は頭を下げて、

「若、申し訳ありませんが、車に戻ります」


そう言うと、無理矢理直治を部屋から出した。


(くっそう!紗代子は何処にいる)


廊下を引きずられながら、直治は怒りが増して来た。

車に乗せられ、動きだした車の後部座席から叫んだ。


「紗代子のいる寮にいけ!」


直治は無理矢理車を寮に向かわせた。



その頃紗代子は、荷物を持って電車に乗っていた。


院長からしばらく人手が足りない長野県の老人ホームに行って欲しいと言われていたのだ。


そこには寮がないので、ホテルで滞在する事になっていた。


ホテルは雄也が用意したもので、彼もそこで一緒に過ごす事になっていた。


紗代子はこの事は知らされてはいなかった。

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