第88話

2人で幸せな時間を過ごした後、夕食を済ませると拓也が自宅まで送ってくれた。


部屋に入ってベッドにしばらく横になる。


若葉の頭の中は彼の事で一杯になっていた。


愛されるってなんて幸せなんだろう。


彼は私の全てを理解してくれている。

直人の事にしても、

(お兄さんが大切に守ってくれたから今の若葉がいるんだよ)

そう言っていた。


確かにそうかもしれない。

私は兄さんに甘えてばかりだった。


若葉はベッドから立ち上がり、切っていた携帯の電源を入れて着信履歴を確かめた。

 

直人からの着信はなかった。


ただ、奈々からメールで

(お兄さんからあんたが何処にいるか電話があったわよ)

と連絡が入っていた。


若葉は彼女に返信をして台所に向かうと、直人の為にクッキーを作り出した。


(まだ夜の8時だからバレンタインには間に合うか)


生地をオープンに入れ、焼けるまでシャワーを浴びにバスルームに向かった。


鏡の前で服を脱ぎ、自分の身体をまじまじと見た。


拓也が付けたキスマーク。

私は彼に抱かれたんだ。。


そう思うだけで、頭がぼーっとしてくるのだった。


素早くシャワーを浴びて着替え終わると、直人に送るメールの内容を考えだした。


今日病院前に沢山の女性がチョコレートを持ってきていた事、迷惑だった事。。


(駄目だわ。この内容だとまた喧嘩になりそ

う)


バレンタインのクッキーを作ったからー。この前は言い過ぎました。御免なさい。


これだけ書いて送信した。


時間が経っても直人から返信も着信もなく、仕方なく寝る用意をしてベッドで本を読んでいると、玄関を開ける鍵の音がした。


勢いよくドアが開き、息を切らせた直人が中に入ってきた。


「兄さん?どうしたの」


いつもと違う直人の姿に若葉は驚いた。


何も言わずにベッドに近づくと、いきなり彼女を抱きしめた。


急いでやって来たのだろうか、直人の心臓の音が聞こえてくる。


抱きしめられていた身体を離されると、若葉は彼の顔を見て更に驚いた。


冷静な直人とは思えない、真っ青な顔に強張った表情を浮かべていたからだった。

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