11人目 デュラハンの審査
「アイツとの肉体関係は、大学時代に始まったんだよ……」
居酒屋で一緒に酒を飲みながら、先輩は私の質問に答えてくれた。
先輩は少しだけ日本酒を口に入れ、彼との関係について話す。
「……最初、そういう行為にはどちらから誘ったんですか?」
「私だよ。ゼミの新人歓迎コンパの後、アイツをタクシーで自宅へ連れて行ってヤった」
「どうして誘ったんです?」
「……性欲が溜まってたから。特に恋愛感情はなかった」
恋愛感情がないのに誘えるのか……。
とんだビッチだな。この人……。
「それなら、彼じゃなくても他にイケメンな人とかいなかったんですか?」
「彼が良かったんだよ」
「どうしてです?」
「……何か、落ち着くから?」
その落ち着きこそが恋愛感情ではないのだろうか……?
「でさぁ、アンタは彼氏とかいないの?」
先輩は唐突に質問をしてくる。
「い、いませんよ!」
「じゃあ、アイツとか彼氏にいいんじゃない? もう私のお古だけどさ」
「コネ入社君とは絶対ありえませんからっ!」
私は手元にあるカシスオレンジを口の中へ流し込んだ。
* * *
この日から、彼のことは『コネ入社君』と呼ぶようになった。
一方、それに対抗してなのかは不明だが、彼は私のことを『同期さん』と呼ぶようになる。
その頃から仕事が忙しくなり、審査する部門が違う彼とは滅多に会わなくなった。ただ、アイツは度々警報を鳴らしているので、トラブルを起こしているということだけは分かる。
私たちも警報に慣れて『またアイツか。まぁ大丈夫だろう』みたいな雰囲気になっていた。
しかし、あのときだけは違った。
* * *
当時、私は当日の仕事を終えたばかりで、施設最上階にあるラウンジで休息していた。近くの自販機で飲み物を購入し、のんびりとソファーで過ごす。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
その日も施設内に警報が鳴り響いた。突然の騒音に驚き、飲み物を少し噴き出してしまう。
「ま、また警報?」
私はガラス越しに審査ゲート周辺を見下ろし、警報が発せられた位置を探る。
どうせまたコネ入社君が何かトラブルを起こしたのだろうと考えていた。
しかし、
「何よ……アイツ……?」
2番入界審査ゲートの手前に巨大な鎧が立っていた。首から上がなく、明らかに生物ではないことが分かる。その鎧は黒いオーラのようなものを纏い、2番ゲートの緊急用シャッターを攻撃して破ろうとしていた。
「アレは……やばいんじゃない?」
キュィィイイン……!
ズガガガガ!!
高出力レーザーが発動し、警備隊も小銃や粘着手榴弾でその鎧を破壊しようと試みた。火薬の匂いがラウンジまで到達し、あの鎧の破壊に膨大な量の火薬が使用されていることが分かる。
しかし、その鎧はなかなか止まらない。
バギッ……!
どうにか鎧の大部分を引き剥がすことには成功した。鎧内部の魔法陣が露出している。
しかし、その動き自体は止まらない。
鎧はそのまま緊急用のシャッターを破壊すると、内部に侵入した。
「嘘……!」
あそこには、まだコネ入社君がいる。
審査カウンターのガラスは頑丈とはいえ、あんなやつに攻撃されたらひとたまりもないだろう。
「アイツ……コネ入社君を殺す気なんじゃ……」
私は不安で胸が苦しくなり、両手で胸元を押さえる。
「逃げて……コネ入社君!」
私は叫んだ。
そのとき、
ドォォン……!
「え……?」
2番入界審査ゲートで爆発が起きた。
粉々になった審査カウンターが宙に舞い、鎧の破片がホールへと吹き飛んでいく。
「何が……起きたの?」
私は口をポカンと開けながら、その様子を見ていた。
周辺には闇魔法独特の赤黒い光の粒子が飛び散り、これは魔法による爆発であることを認識する。
「どうして……闇魔法が……?」
時間が経つにつれ、徐々に爆風で舞い上がった煙や闇魔法の粒子が消えていく。
「……誰、あの子……?」
先ほどまで煙で見えなかったが、爆心地と見られる位置にはゴシックロリータ姿の少女が立っていた。
「手を上げろ!」
警備隊員が彼女を取り囲み、小銃を向ける。それに応じるように彼女は手を上げ、拘束された。
また、重装備の隊員が床に散らばった鎧の破片を回収して、どこかへ運んでいく。
「そ、そうだ……コネ入社君はどうなったの?」
私は彼のことが気になり、審査カウンターの瓦礫の山を見つめる。彼がまだ逃げていなかったのであれば、あの中に埋もれている可能性が高い。
お願い……どうか無事でいて……。
瓦礫を排斥していく警備隊員の動きを注視し、彼の無事を祈った。
やがて、瓦礫の中からコネ入社君は発見され、隊員に囲まれる。
しかし、
「あれって……」
隊員が何かを運んでくる。寝袋のような道具。
それは映画やドラマで見たことがある、死体を詰める袋だった。
「嘘……」
ぐったりとしている彼がその袋に詰められる。その様子を、私は遠くから眺めていた。
「コネ入社君……? 死んだの……?」
彼が詰められた袋はストレッチャーに乗せられ、隊員がどこかへ運んでいく。
そして、私の視界から消えてしまった。
彼が死んだ……?
私は自分が見た光景を、頭の中で整理することに時間がかかった。
コネ入社君はいつもトラブルを起こしてたけど、その後もヘラヘラした表情で何事もなかったように普通に出勤してた。
でも、今回は違う。
死体袋に詰められてた。
だから、本当に死んじゃったんだ……。
審査ゲート周辺ではすでに隊員たちが復旧作業を進めている。
私はラウンジの壁際で、呆然と立ち尽くしていた。
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