51人目 僕らの挙式の審査
僕とロゼットは結婚式を行うことになった。
みんなに結婚の幸せを知らしめたい、というわけではなく、これまでお世話になった人たちへ感謝を伝えるためにこの式を企画したのだ。
* * *
そして結婚式当日。
僕らはゲート施設近くの小さな式場を借りた。そこは入界者向けの式場で、向こうの世界の様々な宗教に対応しているらしい。
椅子や机が並べられ、参加者を迎える準備が整っていく。
* * *
僕はこっそり会場に顔を出した。
僕側の関係者には家族・友人・先輩など、これまでお世話になった人が集まっている。
一方、ロゼット側の関係者はかなり少ない。魔法学校で変な噂が立ったせいで友人が極端に減ったらしい。家族との関係も、結局のところ勘当されたままになっているので親族の姿も見えない。
それでも、彼女の数少ない友人は結婚式に来てくれた。
「まさか、この私が人間同士の結婚式に参加するなんて、夢にも思わなかったわ……」
「まあ、いいんじゃないのぉ? あんたもあの娘には色々お世話になったんでしょう?」
その友人とは、プリーディオとルーシーである。
向こうの世界で強大な勢力を誇る魔族、そのマフィア的存在の2大ボスがこの式に参加しているのだ。
以前はゲート施設で殺し合いをしていた彼女らだが、今はまるで姉妹のような雰囲気でそこにいる。
本当は、仲が良いんじゃないのか……?
ただ、闇の組織の2大ボスが参加するという事態に、向こうの世界から参加してくれた他の入界者たちは恐怖している。
まるで命乞いをするように神へ祈りを捧げている者もいた。
不吉だから、やめてくれよ……。
* * *
もうすぐ、式が開始される。
僕はロゼットを呼ぶため、彼女が着替えている部屋をノックする。「はい?」と返事があり、僕は扉を開けないまま準備状況を尋ねた。
「僕だけど、着替え終わった?」
「はい! どうぞ中に入ってください!」
僕は扉をそっと開け、中の様子を確認する。
そこにはウエディングドレス姿のロゼットが立っていた。
「どうですか? 審査官さん? 私、似合ってますか?」
「うん……すごく似合ってる……」
僕はそのとき、彼女のドレス姿を初めて見た。
とても綺麗だった。
純白のドレスで、清楚な印象を受ける。
やっぱり、結婚式をやってよかったなぁ……。
「審査官さんも、そのタキシード、似合ってます!」
「ありがとうロゼット……」
僕はロゼットの手を握る。
「……みんな待ってる。早く行こう」
「はい!」
* * *
こうして、結婚式が行われた。
結婚式はとても楽しかった。
夢のような時間はあっという間に過ぎていく。
式がめちゃくちゃになるようなトラブルは特に発生せず、ほぼ予定通りに式は進んでいった。
* * *
その日の深夜。
式とその後の食事会も終了し、僕とロゼットは式場の休憩室にいた。
2人ともタキシードやドレスを脱ぎ、現在は普段着になっている。
小さなテーブルに向かい合うように座り、今日の出来事を振り返っていた。
「今日は、とても楽しかったです」
「うん……今まで生きてきた中で最高の一日だった気がする……」
「ふふっ、審査官さん、けっこう戸惑ってましたよね?」
「まぁ……人生でこんなに祝福されたこと、あんまりなかったから……」
「私も、こんなこと初めてです。でも、嬉しかったです」
「うん……」
僕らは自然に顔を近づけあい、そのままキスをした。
そのとき、
ピリリリリリ……!
「あぁ、ごめん、僕の携帯電話だ」
「もぅ……」
「ごめんごめん……」
僕はキスを中断し、携帯電話の画面を見た。そこには『先輩』と表示されている。電話をかけてきているのは先輩らしい。
先輩もさっきまで食事会に参加していたはずだが、一体どうしたのだろう?
僕は通話ボタンを押した。
「はい、もしもし?」
《あぁ、お前、今どこにいる!?》
「まだ式場にいますけど……」
《今、全審査官にゲート施設へ向かうよう命令が出たんだ! お前も今すぐ施設に来い!》
「えぇ……?」
今夜はずっとロゼットと過ごそうと思っていたのに……。
それにしても、全審査官が緊急で呼び出されるなんて初めてだ。
きっとただ事ではないだろう……。
「……何があったんです?」
《詳しい内容は知らされていないが、施設で記者会見を開いてそこで発表するらしい! 私たちも施設でその会見を見る!》
「……分かりました。とにかく、施設へ向かえばいいんですね?」
《そうだ! 早く来いよ!》
そこで電話は切られた。
記者会見まで開くということは、やはりただ事ではないのは確実のようだ。
「どうしたんです? 審査官さん?」
ロゼットが不安そうな表情で、僕の顔を覗き込む。
「ごめん、これからゲートに行かないと……」
「そうでしたか……」
「本当にごめん……」
「大丈夫です! 私、帰りを待ってますから!」
「……ありがとう、ロゼット」
僕らは再び軽くキスをした。
「それじゃ、行ってくる」
「気をつけてくださいね、審査官さん」
僕は式場を出て、夜の街へ歩き出す。
ロゼットと一緒にいられなかった苛立ちと、施設で何が起きたのだろうという不安を抱えながら、僕は職場へと足を進めた。
* * *
そして、この呼び出された内容こそ、門が与えた最大級の波乱となるのだった。
そのことを、僕はまだ知らない。
最高の1日になるはずが、最悪の1日としてその日を終わろうとしていたのだ。
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