46人目 事件の裏側の審査

 ロゼットはすぐに検査を受けた。何も異常はなく、「健康そのものだ」と医師から言われた。

 僕も医師も、この状況をどのように解釈したら良いのか分からない。とりあえず1週間、病室にて様子を見ることで意見が一致した。


 一応、先輩にもこのことを報告したが、特に驚く様子もなく淡々と聞き入れてくれた。

 まるで、こうした事態を予想していたかのように……。


     * * *


 そして、2日後の病室。

 あれから、ロゼットの食欲は戻った。病院食のみならず、僕が持ってきた差し入れもバクバク食べる。


「あんまり急いで食べると喉に詰まるよ?」

「これ、おいひいです。審査官さん。何ていう食べ物ですか?」

「これは、饅頭だよ」

「マンジュウ……?」

「この国の伝統的和菓子」


 そのとき、


 コンコン。


 ロゼットと会話をしていると、ノックが聞こえてきた。


「おっす、久し振りぃ」


 扉を開けると、病室前に先輩が立っていた。先輩はフルーツの盛り合わせや花束を抱えており、いかにもお見舞いに来た、という雰囲気を出している。


「よぉ、ロゼット、元気ぃ?」

「おかげさまで……」

「なら良かった」


 先輩は病室に入り、机の上に見舞いの品を置いた。椅子に腰かけると、彼女は僕の顔を見た。


「それで、先日言い忘れてたことだけどさ……」

「はい?」

「例のこと、お前に話しておこうと思うんだ……」

「『例のこと』とは?」

「ほら、『デュラハン事件』のときの……」

「ああ、あのことですか」


 先輩が話そうとしていることとは、僕の能力に関わる秘密らしい。

 数日前、プリーディオと先輩は各々『デュラハン事件』の裏側での出来事を話そうとしたが、結局詳しい内容は聞けなかった。


 僕は、ついに聞けるのだ。

 自分も知らない能力について。


「ロゼットも聞いてくれないか? これはお前にも関わる大事なことなんだ」

「はい。分かりました」


 ロゼットにも関係がある?

 一体どういうことなんだ?


「それじゃあ、話そうか……」


 そして先輩は『デュラハン事件』当時のことを話し始めた。


     * * *


 デュラハン事件当日。

 プリーディオがデュラハンを破壊するため、闇魔法を展開した後のこと。


 2番ゲートは吹き飛ばされ、そこは瓦礫の山と化していた。警備隊がプリーディオを拘束し、デュラハンの残骸を回収する。

 その中で、瓦礫に埋まった僕の救助作業も進められていた。


「いたぞ! ここだ!」


 僕は瓦礫の中から回収され、隊員がその様子を確認する。


「ダメだ。損傷が酷い……」


 そのとき、僕は死亡していたらしい。


 魔法による衝撃波で即死した、というのが隊員の見解だ。


 僕は死体袋に詰められ、ストレッチャーで死体安置所へ運ばれる。そのとき、先輩も同伴し、死亡を確認していたという。

 隊員たちは死体安置所に僕を置き、そこには先輩と僕だけが残った。

 先輩は頭を抱える。


「嘘だろ……?」


 部下を死なせてしまったことに対する上司としての責任とか、僕の家族への報告とか、ロゼットへの報告とか、いろいろなことが先輩の頭の中を過ぎった。


「……おい、頼むよ……起きてくれよ……」


 先輩は死体袋のファスナーを開け、僕の顔を確認した。


「……すまん。私が……お前をこの仕事に誘ったばっかりに……」


 先輩は泣きながら、僕の顔を見つめた。

 そのとき、


「え……」


 僕は普通に呼吸をしていたらしい。

 心臓も正常に動いていた。

 傷もほとんどなかったという。


「ちょ、ちょっと! そこの隊員!」


 先輩は急いで隊員たちを呼び戻し、「お前ら判断ミスしてるぞ」と脅迫した。自分に余計な心配や泣きをさせたことを怒っていたのだ。

 隊員たちも「あれ、おかしいな」と顔を見合わせ、僕の死亡は『隊員の判断ミス』として処理された。

 以後、僕は普通の病室に移され、翌日に目を覚ましたという。


 それが、『デュラハン事件』の裏で起きていた出来事だった。

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