47人目 秘めた決意の審査
「……これが『デュラハン事件』の裏であった出来事だ」
「……僕が死んで……生き返った?」
僕が意識を失っている間、そういうことが起きていたらしい。
自分では全く実感がない。
「私の予想では、向こうの世界の魔法因子がお前にそういうスキルを付加したんじゃないかと思うんだ。修哉くんが『未来予知スキル』を入手したようにな。お前の場合は、『蘇生魔法』の一種だと思うが……」
「蘇生魔法……ですか」
《蘇生魔法》
向こうの世界で確認されている魔法の一つで、死んだ人間を蘇生させることが可能らしい。ただ使用の条件には、死後数分以内という制約がある。死んだ体の状態を、魔力を注ぎ込むことでリセット・復活させるようだ。
向こうの世界ではこの魔法を使える者は少なく、使用可能な人間は貴重らしい。
僕は先日お見合い目的で2番ゲートに来たポナパルトを思い出した。彼女は僕に「魔法因子がすごい力を与えている」と言った。
どうやら、彼女が言っていたことは本当らしい。
彼女が言う『力』とは、このことなのだろうか。
「『デュラハン事件』のとき、お前は無意識のうちに自分へ蘇生魔法を使用していたんだろう」
「じゃあ、ロゼットが生き返ったのも……」
「おそらく、お前の蘇生魔法が発動したんだろうなぁ」
「……そうですか」
しかし、僕には1つ疑問があった。
普通、杖などの魔力増幅装置がなければ、魔法はあまり効果は発揮しないはずだ。
「魔力を増幅するものを持ってませんが、こんなに効果を発揮するものなんですか?」
「魔法の威力は個人によって異なる。お前の場合、自分で無意識のうちに蘇生できるくらいなんだから、かなりの魔力を保有しているんだろうなぁ」
「……何か……自分のことですけど、すごそうですね……」
「まあ、そこまで驚くことじゃないと思うぞ。以前からこういうことは報告されていたんだ」
その話を聞いて、僕は以前先輩が居酒屋で言ったことを思い出した。
「確か、先輩は前に『入界者と接触した人間に異変が起きている』と言いましたよね? それはこうしたことを言っていたんですか?」
「ああ。そうだ。学者さんたちが言うには『魔法因子がこの世界に人間に移りつつある』らしい」
「……僕も『魔法因子は感染する』って聞いたことがありますね」
「お前の場合、ロゼットから魔法因子を貰ったんだろうなぁ。私だって修哉君から魔法因子を貰っちゃったし……」
「先輩もですか?」
「お前の休暇中、大学の研究員が審査官を一斉調査したんだよ。それで判明した」
大学による調査も、先輩が以前言っていたことだ。
僕が休んでいる間に、そんなことも行われていたのか……。
「みんな、色々な能力を持ち始めていることが分かった。私の場合、使えるようになったのは風魔法だ。まあ、向こうの世界じゃありきたりな魔法だけどな」
「……そうですか」
「それと、今回の調査で政府が正式に魔法因子の感染性を認めたんだ。今後は魔法やスキル持ちの人間に対して国会であらゆる規制が議論されるはずだ」
「……そうですね」
「まあ、入界者と接触するような仕事をしていると、こういうこともあるんだよ。この世界で普通に生活していれば、魔法が発動することはほとんどないし、だからさ、あんまり気にするな」
* * *
こうして、門が用意したロゼットをも巻き込んだ波乱は収束したのだった。
おそらく、普通の日常生活をしていればこの能力は使うことはないだろう。
僕は、今度こそ黒川の言っていた『波乱』が終了したと思っていた。
しかし、まだ門は波乱を用意していたのである。
後に起こる波乱で、この『蘇生魔法』が僕に重大な葛藤を引き起こすのだった。
僕の能力をただの都合の良い展開で門は終わらせなかったのである。
* * *
それから1週間経過した。
ロゼットに体調の変化はなく、予定通り退院となった。
僕は退院祝いにロゼットを夕食に連れて行く。場所は施設内の居酒屋だ。
「あら、ロゼットちゃんじゃない? しばらく見なかったけど、元気だった?」
「はい! ちょっと寝込んでいましたけど、今はすっかり元気になりました!」
ロゼットはそこで久しぶりに店長と会話をした。どうやら、またロゼットをアルバイトに復帰させてくれるらしい。
* * *
そして、夕食後、僕らは施設近くの公園へ寄った。
夜も深くなり、周辺は静まり返っている。
「ロゼット?」
「何です? 審査官さん?」
「ちょっと公園で休んでいかないか?」
「え、えぇ。構いませんけど……」
僕とロゼットはベンチで休憩し、景色をぼんやりと眺めていた。
ここにロゼットを連れて来た目的は、本当のところ、休憩ではない。
「あのさ……ロゼット?」
僕は彼女に話しかける。
「どうしました? 審査官さん?」
彼女は首をかしげ、僕の顔を見つめた。彼女の大きな瞳に僕の姿が映り込む。
飲酒したせいか、彼女の頬はほんのりと赤くなっていた。
やっぱり、かわいいな。ロゼットは……。
僕はそっと彼女の手を握った。温かい手だった。
「審査官さん……?」
僕は、心に秘めていた決意を、彼女に伝えた。
「……僕と結婚してくれないか?」
「え……」
ロゼットは目を丸くした。
僕は、やっぱりロゼットの傍にいたい。
彼女の入院中、そんな想いが僕の中で強くなっていた。
そして、彼女はしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「……はい! 喜んで!」
ロゼットは僕の手を握り返す。その手から、彼女の温もりが伝わってくる。
彼女の瞳は綺麗に澄んでいた。
「傍にいてくれてありがとう、ロゼット」
僕は彼女を抱き寄せ、そのままキスをした。
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