16人目 インターンの審査
写真撮影から数日後、広報係から『パンフレットが完成した』という連絡が入った。
私のデスクに出来上がったばかりのパンフレットが届き、私は新人審査官が載る『新社員の声』のコーナーを開いた。
そういえば……コネ入社君の写真はどうなったのだろう……?
結局、良い写真が撮れず、コンピューターで無理矢理笑顔にすると聞いていたが……。
私はコネ入社君を写真の中から探し出した。
「うわ……誰これ?」
そこには爽やかに微笑むコネ入社君に似た人が写っていた。
どうやら、コンピューターでも笑顔にできず、似た俳優を使ったらしい。
「アイツの顔……コンピューターでも笑顔にできないなんて……どうなってんのよ……」
* * *
そして数週間後、インターンシップは開かれた。
早朝からゲート施設内の広い会議室に参加する大学生が集まる。
私も研修生の教育係として会場に呼ばれたのだった。
「あ、おはようございます、同期さん」
「あら、おはよう、コネ入社君」
会場の隅にはコネ入社君も待機していた。この男も教育係なのだろう。
ホントに、こんなヤツが教育係なんかを担当して大丈夫なのか……?
いや、無理に決まってる……。
研修期間に事件が起こらないことを祈ろう……。
「……コネ入社君? 研修期間中はトラブルを起こさないでよ?」
「それは……入界者によるところが大きいと思いますが……」
「いい? 穏便に、紳士的に対応するのよ? いいわね?」
「……はい」
私は彼に釘を刺し、学生たちへ視線を戻した。
広報の職員が彼らにパンフレットを配布していく。彼らは友人同士で参加している者も多く、パンフレットを見た感想を言い合っていた。
そのとき、女子学生の会話が聞こえてきた。彼らも友人同士で参加したらしい。私たち審査官が集まる箇所を指差して話している。
「ねぇ、あの先輩カッコよくない?」
「あの女の人でしょ? パンフレットの写真もキリっとしてて決まってるよね。おまけに巨乳だし」
おそらく入界審査官のチーフである白峰先輩のことを言っているのだろう。
「こっちの女性新入社員の人、可愛いよね~」
ん? 私のことかな?
新入社員で、かつ女性でパンフレットに載っている人物は私しかいないはずだ。
「うーん、でも営業スマイルが決まりすぎているっていうか、ちょっと闇が深そう」
は?
闇が……?
深い……?
こんな陰口を叩かれたのは、生まれて初めてだ。
持ち前の容姿や頭脳でチヤホヤされてきた私にとって、衝撃的な言葉だった。
『あら、可愛らしい』
『すごーい! 頭いいのね!』
私はそんな言葉をかけられて育ってきた。
みんなが私のことをそう思っている……、
そう信じきっていた部分があった。
写真に載せている私の笑顔の写真だって、就職活動時期に鏡を見て練習したものである。自信のある営業スマイルだったのだ。
まさか、こんなことを言われるなんて……。
「ねぇ、コネ入社君……」
「何でしょう?」
「私って……闇深そうに見えるのかな……?」
本当に私は闇が深そうに見られているのだろうか。
確認せずにはいられなかった。
「同期さんのこと、正直に言うと……」
「うん……」
「かなりヤバイと思います。手帳とか乱暴な字で書き殴ってそうなイメージがありますね」
正直、それは事実である。
自覚はないが、友人に自分の手帳を見せたとき、『うわ、何、この字! 雑すぎ!』と言われたことがある。どうやら私の手帳は他人には解読不能らしい。
「それに、部署も性格も全然違う僕なんかをライバル視してるあたりが、強欲と嫉妬深さを感じます。他人からの評価をそうやって気にするあたりも、承認欲求が漏れ出しているように思いますね」
うっ……。
痛いところを突いてくるなぁ……。
コネ入社君は何も考えていないように見えるが、他人のことを結構観察してる。
やはり、彼は審査官の仕事に向いているのかもしれない。
この観察眼と、痛いところを突いてくる遠慮のなさが、トラブルを引き起こすのだろう。
でも、そういう特徴って……私が持ってないものだと思う……。ある種の才能というか……。
だから、ちょっとだけ、彼のことを尊敬してしまう。
ちょっとだけだけど……。
* * *
その2日後のことである。
今回のインターンシップは途中で中止された。
原因は、コネ入社君の担当するゲートで入界者による自爆テロが発生したことらしい。
事件後に彼を見たのだが、何もなかったようにダルそうな様子だった。いつものようにヘラヘラしている。
同じゲートで研修していた学生は治療施設でカウンセリングを受けているというのに……。
……ホントに、アイツの精神状態はどうなっているのだろうか……?
彼のことを本当に尊敬していいのか悩むのであった。
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