40人目 彼女の容態の審査
僕は手術室の手前にある椅子に腰かけながら、ロゼットの治療が終わるのを待っていた。
どうして?
なぜ、ロゼットはあんなことに……。
彼女が向こうの世界に行っている間、何があったって言うんだ……?
* * *
数時間後、『手術中』の赤いランプが消えた。
ロゼットは再び僕の前に姿を現した。彼女はストレッチャーの上で眠っていた。それを看護師が病室へと運んでいく。
「あなたが、彼女の関係者ですか?」
彼女と同時に部屋から出てきた医師に尋ねられた。
「……はい……彼女は……僕の恋人です」
「そうですか」
「あの、彼女の容態を教えてください」
「はい。これからお伝えします。診察室へお願いします」
* * *
僕はその医師に診察室へ案内された。
室内には消毒液のにおいが漂っている。
「どうぞ、こちらに座ってください」
医師は僕を椅子に座らせ、懐から封筒を取り出した。
机の上に封筒の中身が広げられる。
中身は写真のようだ。
「では、まず、外傷の方の説明をさせてもらいます」
僕は彼女の傷の写真を見せられた。何十箇所もの傷の写真が、目の前のボードに貼り出されていく。
魔物のような生物の爪痕。
鞭で叩かれたような傷。
殴られたような痣。
そうした傷がほぼ全身にあるらしい。
また、彼女を苦しめているのは傷だけではなかった。
傷口から病原菌が侵入し、感染症も引き起こしている。僕は多くの病原菌の名前を医師から聞かされた。
現在、ロゼットは複数の感染症が同時に発症している状態にあり、高熱が続いている。その中には異世界にのみ存在する病原体も含まれており、彼女は今もそれらと戦っている。
手術によって外部の傷は治療できたが、こうした病気の治療にはまだまだ時間がかかるという。まだ彼女は危険な状態にあり、今後も油断できない状態らしい。
そして、彼女の胃や腸の内容物から、毒草や毒キノコが発見された。そうした以外の内容物が発見されないことから、空腹に耐え切れず食したのではないかと考えられる。
高熱や体の痺れといった症状が出ており、本来ならば立っていることすら困難な状態だったという。
彼女はそんな状態でも、歩いて2番ゲートに戻ってきたのだ。
そして、
さらに僕は辛い現実を聞かされる。
「彼女の性器から、男性の体液が検出されました」
「え……それって……ロゼットが誰かと性交したってことですか?」
「はい。それらを採取して検査したところ、まだ簡易的な遺伝子検査ですが、少なくとも5人以上との性交があったことを示しています」
「……どうして……」
「私が立てた仮説では、彼女は集団的な性的暴行をされたのではないかと思います」
「そんな……」
「もし、私の仮説が正しければ、体以上に心が傷ついている可能性があります。しばらく彼女の傍には信頼できる人物をいさせてあげてください」
「……はい」
「幸いにも着床まではしていないようです。洗浄も行いました。今後は、彼女を安心させるようお願いします」
「……分かりました」
集団的な性的暴行……?
一体、誰がそんなことを……?
* * *
僕は看護師にロゼットの病室へ案内された。
「入室の際は消毒をお願いします」
僕は高濃度アルコールで手を消毒して病室に入る。
ロゼットはベッドの上で眠っていた。治療施設へ運ばれた当時、彼女の肌はかなり汚れていたが、今は清潔な状態になっている。あちこちに包帯が巻かれ、傷を隠していた。顔には酸素マスクがつけられ、腕には点滴の針が刺してある。
「あの、彼女はいつ頃に目を覚ますか分かりますか?」
僕は看護師に尋ねた。
「分かりません。本人の体力や気力によるところが大きいと思います」
「……そうですか」
ロゼットの手に、僕の手をそっと重ねる。
向こうの世界に帰る前は、あんなに元気だったのに……。
何が彼女をこんな姿にしてしまったのだろうか……。
いや、違う。
そもそも、僕が彼女をこの世界に引き止めておけば、こんなことにはならなかったのではないか……?
僕の心に、後悔が芽生え始めていた。
* * *
そのとき、僕は思い出していた。
幼いときの記憶、遠い過去のことを。
病室、ベッド、そこに横たわる女性……。
今の状況が、当時の様子を連想させる。
あの事故もそうだった……。
僕の判断ミスで、彼女は傷ついたんだ……。
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