11人目 怪しい二人の審査
「あなたの先輩の話では、この辺りから彼女の行方が分からなくなったそうよ」
僕はプリーディオを連れて、ゲート施設近くの公園へ来た。
平日の昼間ということもあり、公園では幼稚園の制服を着た子供と引率の先生らしき大人が追いかけっこをして遊んでいる。
「どうやってここまで特定したんです?」
「確か、カンシ……カメラ? そんな名前の道具を使ったらしいわ」
「監視カメラですね……」
一応、ロゼットの捜索願は警察に提出されているらしい。
行方不明になった当時の服装は、審査ゲートに来たときと同じ、黒い三角帽にローブという、この世界ではかなり特徴的なものだ。
「……どこから探す?」
「そうですね……まず、住み込みでアルバイトを募集している店から探しますか」
それから数時間、僕らはアルバイト募集の張り紙がある店に聞き込み調査を行った。特徴的な服装ということもあり、簡単に情報が得られるかと思っていた。しかし、どの店でも応対した店員は首を横に振る。
公園から半径1キロ圏内の店を全てまわったが、ロゼットは見つからず、有力な手がかりさえもつかめなかった。
* * *
もう一度、僕たちは公園に戻る。
そして、僕はある可能性に気づいた。
「……あ」
「……どうしたの?」
「……ロゼットは、日本語分からないんじゃ……」
これまで僕がロゼットとしてきた会話は、異世界の言語で行われていた。僕が医師や看護師と日本語で会話していたとき、彼女は会話内容が分からないのか首をかしげながら聞いていたのを覚えている。
「……それがどうしたの?」
「日本語が分からないのに『住み込み アルバイト募集』なんて読めるわけがないんです」
「それもそうね……」
「他の可能性を考えましょう……」
僕は公園の近くに河川があるのが見えた。
「まさか、入水自殺……」
僕は河川に架けられている橋の上に立ち、川岸を見つめる。ビニール袋などのゴミに紛れて、黒いブーツが浮かんでいるのが見えた。
「うーん、ロゼットはあんなブーツしてたかなぁ……」
「彼女のブーツ、覚えてないの?」
「カウンター越しではブーツなんて見えないですよ」
「それもそうね……」
それから川岸を歩いて手がかりを探したが、彼女の死体や私物を発見することはできなかった。
* * *
僕らは再び公園に戻る。
気がつけば、もう夕方になっていた。公園では、サッカーで遊んでいた小学生たちが帰り支度を始めている。
「ちょっと、そこのお兄さん」
僕らは巡回していた警察官に話しかけられた。
「はい?」
「いや、あのね。最近、あちこちで誘拐事件とか起きてるんだけど、その子とお兄さんはどういう関係かな?」
どうやら、僕は不審者と思われているらしい。いい大人がゴスロリを着た少女を連れて歩いているのだから不審に思うのも当然だろう。
「……一度は生死をともにした関係……」
プリーディオが呟く。
「え? ちょっと、どういうことなの? 詳しく説明してくれないかな?」
「説明すると長くなるんですが……」
「……ねぇ、この人は何なの?」
プリーディオが僕の袖を引っ張り、聞いてきた。
「この人は警察官と言って、手当たり次第、怪しく感じる人物を調査していく人です」
「……私たちは怪しいってこと?」
「少なくとも、この警察官からはそう見えるみたいですね」
「この世界の『怪しい』の基準がよく分からないわ」
「僕みたいな大人が君みたいな女の子を連れていると怪しく見られることは多いです」
「……意味が分からない」
プリーディオの眉間に少ししわがよる。不機嫌なようだ。
「……その調査って長くなる?」
「多分、なりますね」
「……そう……長い話は嫌いよ……」
プリーディオは眼帯を外し、警察官を睨んだ。
眼帯で封じられていた瞳は、まるでルビーのような深紅の輝きを見せている。
「……私たちは怪しくないわ……あっちへ行きなさい」
「……はい、行ってきます……」
警察官はプリーディオに言われるまま、催眠術にかかったようにどこかへ行ってしまった。彼女はゆっくりと眼帯をかけ直す。
「今のは催眠術ですか?」
「邪眼……私の父がつけてくれた能力……心に隙がある人間を操れる」
「便利ですね。というか、そんな能力があれば、審査ゲートも簡単に抜けられたのでは?」
「最初は使おうと思ってた。でも途中でデュラハンが来た」
「じゃあ、デュラハンが来るのがもう少し遅かったら、僕も邪眼にかかっていたみたいですね」
「そうね。でも、邪眼を使わなくて良かったと思ってる」
「なぜです?」
「あのとき、私には心のよりどころがなくて、正直、あそこでデュラハンに殺されてもいいと思っていた。でも、あなたが私を守ろうとしてくれたから、私もこの人を守らなきゃって……」
「……そうですか」
「……あなたは『死のうとしちゃダメだ』とか言わないのね。偽善者みたいに」
「だってそれは偽善者ですから」
「……とにかく、今、私が生きているのはあなたのおかげよ……ありがとう」
最後の「ありがとう」だけは声が小さく、僕には聞き取れなかった。
ただ、勇者が連れていたエルフが言っていた「僕が魔王の生死に関わる」という予言は本当であるということが分かった。
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